真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
実加の提案に半ば押し切られるような形で、4人で飲みに行くことになった私達は近くのバルまで歩いて移動した。

移動中は実加と横澤さんが居てくれたおかげで、広務さんとはそれほど硬い空気にならずに済んだ。

入った、お店は半地下にある少し照明を落とした、クラシカルな雰囲気のダイニングバル。

店内へと続く木目調の螺旋階段がヨーロッパのアンティークを思わせて、アールヌーヴォー調の刺繍が施されたオーガンジー素材のレースカーテンで仕切られた各テーブルには、ガラス製のシャードランプが置かれていて落ち着いた印象を醸し出していた。

そんな大人な空間で、実加は子供のような天真爛漫さで軽快にトークを弾ませた。

「お茶汲みっていうのは、戦同然なのっ!蛇口から放出された冷水が沸騰する直前に火を止めて、茶筒から掬い上げた茶葉2gに98度の湯を湯呑みと急須の間隔5㎝の高さから湯幅0.8㎜で、150ml注ぐ。このとき......」

実加の十八番。マシンガントークに広務さんも私も思わず声をあげて笑い、おかげで重く暗かった顔つきが太陽に照らされたように、ほんわかと明るくなった。

そうか、実加は気にかけてくれたんだ。私が彼とうまくいってないと言ったこと、さっき彼の前で私が寂しく俯いたこと。

それから、やっぱり横澤さんのためだ。

久しぶりの友人との再会に嬉々とした恋人を見て、実加は会社でも家でも毎日仕事漬けの横澤さんに息抜きをしてもらいたくて、この会を提案をしたんだ。

それはつまり、同じ空間にいること自体が愛情表現という横澤さんの気持ちを実加が真ん中で受け止めている証だ。

どこまでも純愛を貫く実加と横澤さんを見ていると私も叶えたくなってしまう。広務さんとの希望に満ち溢れた未来を......。

ーーそう思ったら和やかな空気に包まれていた場に少し水を差してしまった。

またしても寂しく俯いた私に広務さんが気がついた。

「どうした? 具合悪い? 大丈夫?」

広務さんは私の肩を優しく抱き寄せながら顔を覗き込み、耳元に唇を寄せて実加と横澤さんには悟られないように囁いた。

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