真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
あとほんの数ミリで耳たぶにキスされるくらい間近に迫った唇と甘い息遣い。スーツとブラウスが擦れ合う感覚を味わいながら鼻腔に感じる、彼の身体の匂いと混ざり合ったマリンシトラスの香り。

心臓がドキンッと脈打った私は、早鳴りの鼓動に振り回されないように気をつけながら、俯いたまま返事をした。

「うん、大丈夫......」

「本当に大丈夫? 少し頬が紅いね......。俺達は、そろそろ出よう?」

私の希薄な反応を広務さんは、むしろ気分がすぐれないと解釈したようで、退席を促すとともに、より強く肩を抱き寄せた。

こんなに優しくされたら、たとえどんなに不毛な恋だと分かっていても、永久に彼を求め続けてしまいそうで怖い......。

身体が彼の方へ傾いているのを抱き寄せている腕の力のせいにして、私は”いじらしく”彼の肩に、もたれた。

「コラそこーっ、公衆の面前でイチャイチャしなーいっ! ラブラブするのは、ちゃんとベッドの中でしなさーいっ!」

広務さんと私のやり取りを目にした実加は、モスコミュール片手に”ぐでんぐでん”で、嗜めた。

「みぃちゃんは、そろそろオレンジジュースに切り替えようね」

見事に出来上がっている実加を横澤さんが宥める。

「うるさーいっ、まだ呑めるーっ! ねぇ成瀬さん、秀くんて大学の時から、こんなに口うるさかったんですかぁー??」

「ははっ、秀一(しゅういち)は、昔から面倒見のいいやつでしたよ」

「そう、オレは”いいやつ”って、言われるばっかりで。反対に、お前はモテたよなぁ。おまけに優秀で教授に信頼されてた」

「おい、秀一。話盛るなよ」

「何言ってんだ。そんな謙遜、嫌味だぞっ」

困った風に苦笑いする広務さんを前に、ほろ酔いの横澤さんは上機嫌で、大学時代の広務さんについて語り始めた。

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