真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
彼の胸に顔を埋めて目を閉じた。

トクトクと聞こえる心音と熱の籠ったマリンシトラスの香り。

広務さんは私の髪に頬を寄せて、それから、そっとキスをした。

「優花」

「......うん?」

ゆっくりと身体を起こされて彼の瞳を見つめれば、まるで夜の猫のように瞳孔が大きく広がり、漆黒のまなこが濡れていた。

その瞳から、いずれ涙が流れるのではないかと、切なさが募った私は彼の頬に手を伸ばした。

"どうか泣かないで......"

触れ合った彼の頬と私の手のひらは共に熱く。二人の堪えようもない恋情を溶かした。

どうしようもないくらいに、互いの息吹を確かめ合いたくなった私達は、ゆっくりと唇を近づけた。

「ん......っ」

私は想いの深さに身悶えながら、咥内を開いて彼の濡れた舌を受け入れた。

この時、幸せの裏側にある裏切りへの罪悪感で、胸がギリギリと切り刻まれた。

その痛みを癒すように。広務さんは優しく温かく、咥内へ甘い蜜をとめどなく送り込んで、私の舌を撫でるように弄った。

許しを得る事を躊躇ってキスの合間に俯いても、大きな手のひらで頬を包み込まれて、ゆっくりと顔を上向かせられる。

キスの角度を変える隙に顔を背けても、彼も顔を傾けて柔らかい唇で追ってくる。

彼はキスを止める事を許してくない......。

”君は俺のものだ。あの男には絶対に渡さないーー”

そう言われているようで、執拗に求められる快感に秘めたる細胞の粒が目覚めだして、身体の性感が覚醒した。

今、彼がどんな唇の形でキスしているのか想像すると、思考が蕩けて胸が弾けそう。

そして、生み出された甘い声。

「......はぁ......っ......っ」

「そんなに、感じてる声聞かされたら、俺......、キスだけじゃ我慢できないよ?」

男っぽく低い声で囁かれて、胸の真ん中がキュゥッと絞られた。

そんな私の気持ちを手玉にとり、彼は耳たぶを食んだ。

「ぅぅん.......っ」

「知ってるよ。......優花の気持ちいいところ、全部」

閑静な夜の住宅街で誰の目に触れる事もなく、彼と恋情を交わしながら煩悩の片隅で喘いでいたのは、背負った十字架の重みに今にも潰されそうな不貞な私だった。

もう夢から覚めようと、私は僅かに瞼を開いて、これが彼と交わす最後のキスだと自分に言い聞かせた。

それでも。この恋の果てが、どんな結末であっても、今夜のキスは終わらない。記憶の中で甘く切なく繰り返される、永遠のラストキス......。

薄く開いた私の瞼を見つめて、彼が言った。

「優花、愛してる......」

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