真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
毎日通る改札にスマホを半ば無意識でかざして、いつも歩いている自宅マンションへの道を黙々と進む。

すっかり体が覚えてオートマチック化した、この行動で自宅へ帰る間、頭の中を席巻していたのは今日の別れ際、彼が言った台詞だった。

「荷物は、その都度、少しずつ運べばいいし、買い足せばいいから。とりあえず、必要なものだけ持っておいで。早速、今週末から一緒に暮らそう」

私をしっかりと腕の中に収めて、広務さんは実に安らぎに満ちた声で、二人暮らしへの展望を語った。

二人暮らしへの展望を腕の中で聞いたあと、無言で胸に顔を埋めた私を彼は、より強く抱き締めた。

私との未来に何の不信感も疑問も持たず、前途が明るいと信じている彼の姿に私は、ただ黙って寄り添うことしかできなかった。

近い将来、確実に。広務さんを執拗に傷つける事態が待ち構えているにもかかわらず、彼の安堵感に包まれた穏やかな声を壊すことが、とても怖かった。

二人の未来が結実されたと確信した彼は、腕の中から私を解き放った。

「名残惜しいな。本当は連れて帰りたいんだけど......。でも、今日は優花をしっかり寝かせてあげたいから。せめて、駅まで手を繋いで歩こう」

「うん......」

ギュッと繋いだ彼の手は冷たい夜風に、びくともしていない温かさだった。

彼と手を繋ぎながら、住宅街を暫く歩いて細い道のT字路を抜けると、車の往来が頻繁な二車線の公道に出た。その道路を渡ると、右手に小さな駅が見えた。

「この駅からなら、優花の最寄り駅まで一駅だから。タクシー使うより早くマンションに着くよ。今、8時10分だから2番線に停まってる電車に乗れば大丈夫」

私の帰路をサクサクと段取ってくれる彼の頼もしさに胸がキュンと鳴って、やっぱり、この男(ひと)じゃなきゃダメだと思った。

それなのに。頭の中では、まるで心臓に杭を打ち込むかのように、広務さんと暮らすことなど、到底叶わない夢物語なのだと執拗に言い聞かせていた。

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