真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
”広務さんに、別れを告げなければいけないーー”

その言葉を心の中で何十回と唱えて、脳裏に刷り込みながら歩いていると、いつの間にか自宅マンションの前まで辿り着いていた。

エントランスから漏れる明かりにホッと一息ついてから、いつものように自動ドアを通過した。

長方形に区切られた床を渡り、エレベーターに向かう途中でスーツ姿の男性が横目に入った。

このマンションの住人なのか、それとも来客なのかは分からないけれど、どのみち私には関わりのない人だと思い、気に留めずにエレベーターを目指して、ひた歩いた。

その間も、途切れることなく思考は続いていて、私は広務さんとの将来について思い悩んでいた。

自分の心情に没頭するあまり私は、この時、周りの状況を把握できなかった。だから、先ほど横目に入った男性が後ろから追いかけて来たことも、彼が何度も私の名前を呼んでいたことも、全く気がつかなかった。

「やっと気がついた......」

鼓膜が微かに拾った人の声が次第に大きくなり、それが自分の名前であることにようやく気がついて、ふと、後ろを振り返れば、そこには濃紺のスリーピーススーツを着た今朝と同じ格好のジークがいた。

「ジーク......」

彼の登場に、遮断されていた思考が一気に押し寄せた。

先ほどエントランスで見かけた男性は確か青系のスーツを着ていた。もしかして、ジークだったのだろうか?

私は真相を確かめようと、ジークの後ろに視線を送り、エントランスを見渡した。

エントランスにはジークと私の他に人はおらず、先ほどの男性がジークであると分かった。

それなら、どうして彼は、あんな場所に佇んでいたんだろう?

視線を戻して、疑問を投げかけるようにジークを見れば、彼はとても疲れた顔をしていた。

「おかえり。今朝と同じだ。何度呼び掛けても、優花、全然オレに気がつかなかった......」

< 175 / 315 >

この作品をシェア

pagetop