真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
近い将来叶えられる未来予想図に浮き足立ちながら、プロポーズへ挑む身なりを整えた。
グレンチェックのツイードジャケット、白いシャツ、ボルドーのナロータイ、そしてブラックのチノパンツ。

コーディネートを姿見でチェックしつつ、飛行機のシートに押し当てられて崩れた髪にワックスで立体感を出した。

身だしなみは完璧。あとはオーダーしておいた深紅のバラの花束を愛車に積み、彼女を迎えに行けば、それから先の展開は身構える必要もなく自然と満たされた時間が紡がれていくーー。

最愛の女(ひと)を想う、幸福なイマジネーションは何よりの原動力。俺は姿見に映る自分に気合いを入れると、素早く財布とスマホをパンツのポケットにしまい足早に玄関へ向かった。

玄関先には帰ってきた時に置いたままのキャリーケースが堂々と鎮座していたが、それを片付けることよりも一刻も早く彼女のもとへ駆けつけたい衝動に押され、キャリーケースを放置することを決めて勢いよく玄関のドアを開けた。

玄関からエレベーターまでの数メートルの距離を、まるでステップを踏むような軽い足取りで渡りタイミングよく開いた扉の中に飛び込むと、いつものようにシースルーのエレベーターから見渡せる都会の賑やかな景色が一面に広がった。

この忙しない営みの中に彼女も居て、今頃仕事に追われていることだろう。

でも、あと少しだから......。夕焼けが落ちる前には必ず君を迎えに行って、その疲れた身体も心も優しく抱きしめて笑顔にするからーー。

ときめきが拡大するごとにシースルーのエレベーターの景色は次第に平面に近づいていき、いよいよ一階のエントランスに到着すると、”ピンッ”という小気味の良い音を聴かせてスムーズに扉が開いた。

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