真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
木製の枠で縁取られた年季の入ったガラス扉を押して院内に入ると、焦げ茶色のシンプルな長いソファに、お腹の大きな女性が浅く腰掛けていた。

妊婦さんだ......。

同じ立場でありながら、その女性と私とでは一線を画しているような気がした。理由は、なんとなく分かる。でも、分かりたくはない......。

外待合のソファに腰掛ける妊婦の女性を視界からフレームアウトした私は、視線の矛先を無数の微細なキズが付いている床に定めて伏し目がちに歩き、受付へ向かった。

「今日は、どうされました?」

おそらくベテランとおぼしき受付の医療事務員は、50代くらいの、ふくよかな女性で。中音よりも少し低い落ち着いた声で優しく声をかけてくれた。

「妊娠したみたいなんですけど......」

「妊娠検査薬は使いましたか?」

「はい......」

「じゃあ、問診表をお渡ししますので、記入したら受付までお持ち下さい」

受付の女性に促されて外待合のソファに座って問診表を記入する。

てっきり、コップを渡されて尿検査をするものと思っていたのに、妊娠検査薬で陽性が出た場合、尿検査をしないこともあるらしい。

「お願いします」

「はい、お掛けになってお待ちください」

問診表を受付に渡してソファに座り、診察の順番を待っていると、先ほど目にした妊婦の女性が診察室から出てきた。

大きな、お腹を抱えて、ゆったりと歩く、その姿は充足感に満ちていて、幸せなオーラが全身を包み込んでいた。

十月十日(とつきとおか)後、私も彼女と同じように。幸せに満ちた笑顔を浮かべていられるだろうか?

これから、お腹が大きくなって、きちんと居るって実感できれば、きっとこの子が笑顔を運んで来てくれるはず......。

まだ薄い自分の下腹部に手を当てて祈るような気持ちで時間を消化し続け、ようやく名前を呼ばれたのは正午少し前だった。

「日野 優花さん。こちらへどうぞ」

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