真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
妊娠を切望していたわけでも、ましてや計画していたわけでも、さらさらない。

妊娠していなかったという解答は、現状の私には本来喜ばしい出来事のはずなのに、予想外に悲しく虚しい感情が込み上げてきた。

動揺しながらも、一時、自分を人の子の母親だと自覚していた時に沸き起こった我が子への愛しさと責任感は、遠い記憶に撃ち抜かれた孤独という空洞を深く塞いで、気がつけば生きる意味そのものになっていた。

しかし、思い描いていた我が子の存在が結局は妄想で、この体が空洞だと分かり、更には将来を誓い合うべき男(ひと)の不穏な過去の話ーー。

心身に鉛をつけられて深海に沈められたように重くて、起ち上がることが出来ない.......。

それなのに、”起きろ”と、容赦なく差し迫ってくる都会の朝日が、僅かに開いたカーテンの隙間から真っ直ぐに伸びて残された滞在時間を知らせてきていた。

私は仕方無しに、疲弊している心身に鞭を打ちつけてベッドに掴まりながら、なんとか上体を起き上がらせた。それから腰を軸にして、のろのろと足を床につけてようやく立ち上がることができた。

そして、着の身着のまま倒れこんだ昨晩同様、身なりも整えず、ふらふらと部屋を後にした。

日曜日の朝の街の風景は平日よりも人通りが少なく閑散としていて、閉鎖的な気分に囚われている私にとって人目に晒される比率が低く都合が良かった。

このまま街を浮遊して、いっその事、行くあてのない旅に出ようかという考えも浮かんだけど、やはり、そこまで行動する気力がなくて......。

自宅に戻る手段としてタクシーを使いたかった。でも、衝動的に転がり込んだ昨晩のホテル代を考えると、これ以上の無益な出費は控えざる得なかった。

私は空席が目立つ電車の端の席を選んで腰を下ろし、バッグを抱きかかえるようにして膝の上に乗せて俯きながら、硬く目を閉じて帰路に着いた。

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