真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
完璧な段取りだった。

ヘアメイクを終えて美容院を出た私は、余裕の足取りで駅へ向かった。

今から電車に乗れば15分前に待ち合わせ場所に着く。

スムーズに改札を抜けられるようにと、私は歩きながらバッグから定期を取り出して3番線に向かった。

脇目も振らずに改札めがけて一直線。あと数メートルで改札口だ。

そう思って、スッと歩を進めた私の横目に一瞬子供の姿が映った。

気になって。私は振り返り、今度はその子を直視した。

すると。小さな肩から可愛らしい猫のキャラクターのポシェットを斜めがけにして、ピンクのスカートにレースのリボンが付いた爪先の丸い靴を履いた3歳くらいの女の子が、行き交う人波の中で独り佇んで泣いていた......。

そんな状況の中、周りの大人達は電車に乗り遅れまいとして誰もその子に声をかけない。それどころか、まるで厄介ごとのように、その子を大きく裂けて通っていた。

全くもって、非情だ。

ーーなんなのよ!

私は冷たい大人達に憤りを感じながら、迷子になっている女の子に努めて優しく声をかけた。

「どうしたの?」

「ママがいなくなっちゃった......」

その子は見ず知らずの大人の女の人に声をかけられたことを警戒する様子もなく、実に無垢な声で懸命に話してくれた。そして、助けを求めるように、涙で潤んだ大きな目で真っ直ぐに私を見つめた。

「お名前は?」

「ユメ......」

「ユメちゃんは、何歳かな?」

私が年齢を尋ねると、ユメちゃんはゆっくりと右手の指を三本出してくれた。

「そう、ユメちゃんは3歳なの......」

ユメちゃんが大きく頷いたところで、私は彼女の小さな手を繋いで改札口とは逆の方向に歩き出した。

今電車に乗らなければ、待ち合わせに遅刻するかもしれない。

初対面で遅刻をするなんて、お相手の男性に相当失礼だし、実際に遅刻が原因で断られたというケースも聞いていた。

くれぐれも、遅刻だけはしないようにと担当アドバイザーさんからも言われていた。

だけど、私はユメちゃんをどうしても放っては置けなかった。

私は覚悟を決めて結婚相談所の事務所に遅刻の連絡を入れた。

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