真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
出向先まではタクシーで片道、約20分。さほどの距離ではないが、何しろ、ここはニューヨークのマンハッタン。

密集する商業施設、乱立したビジネスビル、そして群衆の流れ……。

目まぐるしい、この街の時間軸と反比例するように、自分自身の時は油断していると尽きてしまう。

今日も約束の時間までは瀬戸際。なのに、道路は相変わらず渋滞の嵐。痺れを切らしたドライバーたちが堪らずクラクションを鳴らしている。

「Hurry up!!」

気休めだと分かっていても、俺も叫ばずにはいられない。

そんな俺の焦り声を聞いたタクシードライバーは、まさしく他人事といった風にマイペースに言葉を返した。

『お客さん、そう後ろから吠えられても、無理には走れないよ』

『何とか急いでくれっ、抜け道は無いのか!?』

『抜け道ねぇ……、あー、そういえば』

タクシードライバーは渋った態度を一転させて、ひらめいたように視線を上に向けたあと、ハンドルを握り直し車を急発進させた。

『お客さん、しっかり掴まってなよっ!!』

「うぁっ!!」

言われなくても、しがみつかなきゃ振り落とされそうだ!

暴走するタクシーは蛇行しながら主要道路を抜けると、小路に入り路地裏を突っ切って再び大通りに出て急停止した。

『お客さん、着いたよ』

『 ……ああ、ありがとう……』

今日で明らかに寿命が縮んだな……。

まるで一年分の残業をこの十数分間に、こなしたような疲労感を背負いながら、のっそりとタクシーを降りると、そこは先程まで居た大衆的で混沌とした景色とは打って変わり、ハイソサエティな建造物とラグジュアリーなブランドショップが折り目正しく軒を連ねた閑静な風景が広がっていた。

同じ街なのに、区域によって全く毛色の異なるニューヨークの多彩さに改めて驚かされながら辺りを見回すと、一軒の見覚えのあるジュエリーショップが目に止まった。
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