真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
尻窄みになっていく彼の言葉と引き換えに、景色はいよいよ喧騒を離れて見覚えのある開けた緑地へと乗り込んだ。

ここがニューヨークシティとは到底思えないアメリカン、カントリーの空気を纏った広大な青空の裾野。

彼の愛車の助手席に身を沈めてフロントガラスに反射する眩しい太陽の光に瞼を細めていると、やがて狭い視界に、まるで一枚岩のように巨大な長方形型のエアステーションが姿を表した。

ーー複雑な気持ち......。

ほんの数日前。私はジークと一緒に日本からこの空港に降り立った。

そして今、再び日本へと帰るために、この場所を訪れている。

そんな時、まさか隣にいるのが広務さんだなんて、運命のいたずらなのかーー本当に運命にいたずらされてるみたい。

せっかく再会を果たしたのに、ここでお別れだなんて......。

「あっという間だったな......。2年前と変わってない、優花といると時間が経つのが早いよ」

広務さんは空港入り口のロータリーに車を横付けしてハザードランプを焚くと私の方に顔を向けた。

心なしか彼の笑顔は眉尻の下がった切ない表情に見えた。

私も自然と鏡のように彼と同じ顔つきになって、胸の中に涙が流れた。

「11時55分の便だね。俺、優花が無事に飛行機に乗り込むまで、見届けるから」

「......ありがとう、広務さん」

「ああ、俺って本当過保護だよな.......。日本に戻ってからの優花を、もうこの手で守ることは出来ないのに......。どうすればいいんだーー?」

彼は独り言のつもりで言ったと思う。車を停めて降りる時に小さく聞こえた言葉は混沌とした切なさを孕んでいるようだった。

尚もここで私の期待値が上がる。でも、すぐに虚しさがこみ上げてきて.......。

私は広務さんの独り言を聞こえないふりをして、先に降りて荷物を持ってくれている彼の側に駆け寄った。

「ありがとうっ、私持つよっ」

「大丈夫。優花は自分のバッグ大事に持ってて。空港はスリが多いから、十分気をつけて」

私は言われた通りにバッグのファスナー部分を握りながら、歩調を合わせて歩いてくれている彼の隣に並んだ。

空港内は数日前に訪れた時よりも閑散としていた。年末年始の帰省ラッシュも落ち着いて乗客一人一人の顔も覚えられるくらいの人出だった。

とはいえ、さっき彼が言ってた通り、こんな日にも不逞の輩が必ず身を潜めている。

私は広務さんの横に、ぴったりとついて辺りを警戒しながら歩いた。

広務さんも同様に気をつけながら誘導してくれているようだった。

傍にいる私を気にかけながらも、周りを見渡すように歩いている彼。その視線の先に何を捉えたのか、彼は急に10歩ほど先を見据えたまま立ち止まった。

私は気になって、すぐに彼の視線を追いかけた。

「......ジーク」

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