真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
モノトーンのツイードジャケットにワンウォッシュデニム、足元はレザーのショートブーツという普段見慣れているスーツ姿とはあまりにも違ったカジュアルな出で立ちの彼は、一瞬見ただけではジークだということが容易に判別できなかった。

少し間が空いて、視線の先に立ち塞がっているその男性がジークだと私が認識したとき、ほぼ同じタイミングで広務さんがジークに向かって歩き出した。

するとジークも同様に、こちらに向かってまっすぐに進んで来た。

衝突は避けられない。

私は、かち合った時のことを考えて神経が強張り、手のひらには冷や汗が滲んだ。

ジークに会ったらまず最初に、なっ.......なんて言おう.......。

よりによって、広務さんと一緒にいる時にジークに会うなんて。

運命のいたずらっていうか、残酷な運命。

ーーでも、ジークとはもう終わったんだし。

今更彼が私のプライベートをどうこう言う権利はない......!

腹をくくってジークと対峙する時が来た。

肩に力の入った状態で私がジークに接近するなか、先頭を歩く広務さんの背中は何の力みも感じない。

むしろ堂々とした風格さえ漂っている。

スタスタと進む広務さんの背中を頼りにして私もソロソロと彼の後に続いていると、程なくしてピタリと広務さんの足が止まった。

私は急ブレーキをかけられた時みたいに広務さんの背中にトンッとぶつかった。

それなのに、広務さんは背中に受けた衝撃に全く気づくことなく前を見据えていた。

私も体勢を立て直して、広務さんの背中越しに前を向いた。

すると、ついにツーショットを目撃したジークが冷静に口を開いた。

「......そういうことか」

「どういう意味だ」

「成瀬。お前、優花が一体誰と何のためにニューヨークに来たのか知ってるか?」

「一人で観光に来たと聞いているが」

「優花は、よほど、お前には知られたくないんだな.......」

ジークの言葉を受けて広務さんが微かに首をかしげたのは後ろから見ていて分かった。

ジークーー!私とあなたの関係がどうであったかなんて、今の広務さんには全く関わりのないことでしょ......!

やたらと、広務さんに噛み付くのはやめてーー!

「成瀬、何も知らないお前に教えてやろう。優花は、オレと結婚するためにニューヨークに来た」

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