真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
「心配するな、モルガン。”友人”の、お前の分も。ここから先は俺が責任を持って、優花を送り届ける」

「......そうか」

ジークは広務さんの言葉を受け取ると、あっさりと私達の横をすり抜けて空港内の往来に紛れ込んで行った。

ジークが去った後、広務さんは私の方へ向き直り静かに微笑んだ。

「行こうか......」

尚も涙目の私。

広務さんの静かな笑顔を見つめたまま何も言えずに立ち往生していると、彼はおもむろに私の手を取り歩き出した。

湿った鼻奥に届く空港内の匂いは機械的な苦さを含んでいて、歩くたびに辛辣な気分を刺激した。

「ホテルのロビーで優花を見つけた時、2年ぶりの再会だっていうのに懐かしさなんて言うものは全く感じなくて......」

「......無感動だった?」

「そんなこと、有り得ないよ......」

広務さんは虚ろに笑いながら含みのある余韻を残して、私の右手をより強く握った。

検査場まで後少し。そこで私は彼とお別れしなければならない。

ずっと鼻についていた空港内の苦い空気。でも今鼻奥に感じているのは涙腺を刺激された時に起こるツーンとした感覚。

私は広務さんと笑顔でお別れすると決めている。

彼の瞳に映った最後の私の姿を泣き顔にしたくはない。

声を出したら溜め込んでいる涙がこぼれ落ちそうで、私は俯き加減に黙って時々広務さんの横顔を見ていた。

広務さんは目こそ合わせはしないけれど、彼も私と同じように別れを惜しんでくれていると分かった。

固く結ばれた口元と眉間には力が、こもって。彼にとって私との別れは、そう容易い出来事ではないと思えた。

それで十分.......。

私は最後に自分に言い聞かせて、検査場の前で足を止めた。

「広務さん、ここまで送ってくれて本当にありがとう」

「ああ.....、うん。気をつけて」

「日本からニューヨークでの活躍応援してる」

私は溜め込んでいた涙を思いっきり振り払って、今見せられる最高の笑顔で彼を見つめた。

私の目に映った広務さんは、私が日本で見つめてきた彼のどの顔とも違っていた。

生まれつきの端正な顔立ちを歪ませながら唇を強く結んで、漆黒の瞳が揺らめいているのは余計に分泌された涙のせいかもしれない。

その証拠に、まつ毛がわずかに濡れている感じがした。

知り得ない、彼の幼い頃の泣き顔を見た気がして私は胸の奥が熱くなった。

「思い出になんて、なってないから」

そう言って彼は激しく私の身体を引き寄せて、強く抱き締めた。

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