真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
「ん?」

言われた通りに。無防備に振り向いて前を見据えた私の顔は、相当な間抜けズラだったと思う......。

振り向きざまに視線が合ったその人に、こんな顔を見せてしまったことを瞬時に後悔した。

「実加、ごめん。また今度ゴハン誘うね......」

「う、うん......!」

状況を察した実加は、即座に機転を利かせた。

「じゃあ、あたし先行くねっ。おつかれっ」

「うん、おつかれっ」

微妙な空気が漂う中で、実加と私は、いつになくきごちない挨拶を交わして今日をお開きとした。

この一連のやり取りを遠くから、じっと着目していた視線。

私は決して目を合わせなかった。

なぜなら、それは実加と一緒にいる時の朗らかでラフな私を、その人に認識されていると思いたくなかったから。

私がようやく彼と視線を合わせたのは、実加の姿が社内から消えたあとだった。

彼は私と目が合うと、躊躇なくこっちに向かって来た。

”臨戦体勢”そういう表現がハマるような、緊張感に満ちた再会だ。

私はヒールの音をカツカツと響かせながら、険しい表情で進んだ。

彼は一体、何を言いに来たんだろう……。

ニューヨークの空港での事もあって、余計に彼の考えてることが分からない。

一つだけ確かなのは、彼と私は確実に別れたということーー。

考えつくだけの憶測を巡らせながら歩いていると、やっぱり歩く速度が遅くなるみたいで。そんなに何歩も歩いていないうちに、ついに彼が私の目の前に現れた。

「話したいことがあって。君の、お母さんのこと......」

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