真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
大学を卒業して7年ーー。

この部屋に引っ越してきた日のことは今でもはっきりと覚えてる。

新築ではなかったけど、ルームクリーニングでピカピカに磨かれたフローリングの床。

まだ何もないこの部屋にゴロンと寝そべり、これから始まる新生活に胸を膨らませて、その中には少しの不安と、たくさんの夢が浮かんでいた。

キャリアウーマンとしてバリバリ仕事をこなして、素敵な彼氏もいて、いずれこの部屋を出る時は......結婚する時だって。

リビングの窓辺から運ばれてくる春風にまつ毛をくすぐられながら、そんな夢を見ていた。

あの時から7年後。

今年30歳を迎える私は昨日付けで会社を辞めた。

7年間住んだこの部屋は以外なことに、半日で片付いた。

クローゼットの奥にしまいこんでいた昔流行った洋服はリユースショップへ。長年活躍したテレビや洗濯機それから電子レンジなどの家電は専門業者に引き取ってもらった。

そのほかの家具や小物、食器は友達に譲ったり、もらってもらったり、処分した。

どうしても捨てられないお気に入りのものは新しい部屋に持って行くことにしたけど、実はまだ新居は決まっていなくて......。

私はしばらくの間、祖父母の家に私物を置かせてもらうため、祖父母が亡くなった後に家を管理している父に10年ぶりに連絡をした。

実の親子である父と私が10年間も連絡が途絶えていたわけは、母が私を残して家を出て行った後しばらくして父が再婚をしたから。

父は私を祖父母に預けて新しい家庭を築き、以来私に会いにくることはなかった。

それでも毎月決まった日に私名義の銀行口座に、生活するのに充分なお金を振り込んでくれていたことにはとても感謝している......。

それから今回、こうして私物を祖父母の家に置かせてくれたことにも。

父は今ある家庭が何よりも大切。そう分かっているから、私は父へ連絡した時、努めて冷静に端的に用件だけを言って手短に電話を切った。

母のことは一切口に出さなかった。

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