真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
広務さんとの未来を胸に思い描いた途端、まるで顔を出す好機を伺っていたかのように、幼い頃の悲しい記憶が鮮明に瞼の裏に蘇った。

そして、その思い出は私の幸せな妄想を破壊して、心に鋭い刃を突き立てた。

怯えて小さくなった心を、ナイフがグサグサと容赦なく傷つけて、胸の内に血の涙が滲んだ。

私は、その痛みに耐えきれず。助けを求めるように買い物カゴを持つ彼の腕に、まとわりついた。

「買うもの、他にない?」

私が腕を絡ませて甘えると、彼は私の方へ顔を向けて優しく聞いてくれた。

私は俯きながら無言で首を縦に振った。

明らかに様子が変わった私を彼は問いただすことなく、ただ黙って。小さな女の子のように、すがりつく私をどこまでも甘えさせてくれた。

コンビニを出てからも、それからタクシーに乗っている間中、私は彼にずっとくっついたままだった。

絡ませた両腕から伝わってくる彼の温もりは、私の胸の内に滲んだ血の涙を綺麗に洗い流して、開いた過去の傷口を優しく塞いでくれた。


彼と付き合いだしてから、私は以前より母のことを思い出すことが多くなった。

彼と出会う前の私は、意識して母のことを思い出さないようにしていた。

一度思い出すと、その後なかなか忘れることが出来ないからだ。

でも、今は。たとえ過去の悲しみが記憶を掠めても、それを払拭してくれる程の愛情を彼は与えてくれる。

だから、昔より過去を思い出す恐怖心が少なくなった。

そして、私は思った。過去に蓋をして忘れるのではなく、過去の傷を彼に話して嘘偽りのない自分で彼と向き合いたいと。

私の生い立ちを知って、彼が何と言うかは分からない。それでも、私は彼を信じている。

「ここだよ。入って......」

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