真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
私は彼のテリトリーに入った。 
 
私が彼の部屋を訪れるというのは、彼を私の部屋へ招き入れるのとは、意味合いが違う。

これから私が目にするものは、すべて彼が触れたもの目にしたもの......。彼の生活が、人生がこの部屋にはおさめられている。

私も今からその一部に溶け込んで、心も身体も広務さんと一つになる。

この数時間後には、私は一糸纏わぬ姿で彼の熱い胸に抱かれていることだろうーー。

「お邪魔します......」

バリアフリーという表現では、あまりにも無粋な、大理石で作られた段差のないハイセンスな玄関。

入って左側には、いたってシンプルな白塗りの靴箱が同調するように設置されていた。しかし、私は靴箱には収めずにスモーキーピンクのパンプスを玄関の端に寄せて、彼が用意してくれたグレーのスリッパに履き替えると部屋にあがった。

「コーヒー淹れてくるから、リビングで待ってて」

「あっ、私淹れるよ?キッチンどこ?」

「いいから、優花は座って待ってて......」

広務さんは、玄関先から見える焦げ茶色の木目の扉を指して私にリビングで待つように促すと、先ほど立ち寄ったコンビニの袋を持ち廊下の奥へと進んでいった。

彼がコーヒーを淹れてくれている間、私はリビングのソファに座り、首をぐるっと180度動かして部屋の様子をじっくりと観察した。

モノトーンを基調とした彼のリビングは、私が座っている黒い革製のソファの向かいにガラスのテーブルが置かれていて、その向こうに大画面のテレビが取り付けられていた。

部屋の中心に敷かれているライトグレーのラグマットが、モノトーンでメリハリの強い部屋を見事に中和して、ほんわかとした居心地の良い空間を演出している。

物は少なく、テレビを除いて生活感を感じる所と言えば、サイドボードの上に置かれた数冊の本くらい。

タイトルを見る限り、小説やエッセイなどではなく。どうやら彼の仕事に関わるもののようだ。

広務さんは、本当に仕事熱心なんだなぁ......。

だから、非の打ち所が無いほど素敵な男性なのに、今まで仕事に没頭するあまり、なかなか恋愛をする時間が作れなかったのかもしれない。

私はようやく、彼が結婚相談所を利用した理由が分かった気がした。

「あれ?テレビも、つけないで待ってたの?」

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