真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
家主からすると物が少なくて妙齢の女性の興味を引くことなど無いと考える部屋で、私がテレビもつけずに、ただ黙ってソファに座っていたたことが、彼にはとても不思議に思えたようだ。

たしかに、彼の部屋は閑静で彩り豊かという雰囲気では無いけれど、それでも私にとっては彼の息吹きと匂いを感じられる、至上のリラックスサロンのような場所。

そんな私の感覚を当の本人である彼は気がつくはずもなく。広務さんはアイスコーヒーをテーブルに2つ置いたあと私の隣に座った。

さっきレストランでお酒を飲んだけど、それはほんのグラス一杯程度で決して酔いがまわっているというわけではない。

にもかかわらず、部屋で呑み直すことはせずに。彼がお酒の代わりにコーヒーを用意したのは、酔うとお風呂に入れなくなるからだと分かった。

今夜、入浴して身体を清潔にしなければならない理由。それは、もちろん......。

暗黙の了解が確約されたことを、この酔い冷ましのコーヒーで彼が私に合図したのかと考えると、甘いときめきと胸の鼓動が忙しない。

今、私は既に彼が恋しい。

目の前にいるのに恋しい。足りないと言っている。もっと深い部分を知りたいと言っている。

ーーこんなにも。早急に彼を求めてしまう原因は、分かりきっていた。

当然それは、先ほど頭をもたげた母との記憶......。

先ほど彼の両腕がくれた温もりは、幼い頃の心の傷を癒して傷口を優しく塞いでくれた。

そうしたら、今度はその真っさらになった心で彼の温もりを感じたくなった。

彼は気がついてくれるだろうか?私の渇望した想いに......。


私は、下から這うように視線を移動させた。すると、手元が触れ合うくらいの距離で、私の隣にいる彼と視線が絡み合った。

「優花は、この時間。好きなテレビ番組とかないの?」

「え?」

期待とは相反する彼の平常心な質問に、私は自分の気の早さが恥ずかしくなり、思わず口元が緩んだ。

......いや、やはりそれだけではなかった。広務さんは平常心な質問をしつつも、彼の掌はソファの上に無防備に投げ出された私の手を、上からしっかりと包み込んでいた。

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