真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~
こんなに、はっきりと言葉と態度に出されたら、もうアメリカンジョークとは茶化せない。 

だからーー露骨な下心だと思うことにした。

「もう酔ったの〜!? ジーク意外と、お酒弱いんだねっ」 

私の方から甘えたはずなのに。今は、素面どころか真剣すぎる彼の眼差しから私は逃げようとして、場の空気を壊そうと、おどけてみせた。 

「酔ってないよ。オレ、酒は強いよ。それに、どんなに酒が弱い奴だってさすがに一口、二口じゃ酔わないだろ......」

ジークが簡単に引き下がらない事に、私は大きな危機感を感じた。

「優花、オレの目を見て。これが酔ってる目に見える?」

今、彼の碧い瞳に射抜かれたら、葬り去った気持ちが燻りそうで怖い。

私は彼の言葉に反抗して、伏し目がちに俯いた。

だけどジークは反発する私の気持ちなど無視して、私の頬に躊躇なく触れて、指先を顎までスーッと滑らせるとクイっと持ち上げて自分の方へ向かせた。

「オレ、本気だよ」

叶わぬ恋と、昔諦めた男(ひと)の、嘘のような言葉に私の心臓は跳び跳ねて、視界はクラりと揺らめいた。

空腹でマティーニを煽ったせいで、いつもより酔いが回るのが早い。

此の期に及んでも、お酒のせいだと屁理屈をこねるのは、広務さんとの純愛を裏切りたくないから。

”安っぽい”と、一度烙印を押した、広務さんから私への「愛してる」の言葉は、今過ちを抑える要となっている。

それでも頬は熱く、視界はクラクラと揺れて、ついには火照った身体がジークの方へと傾いた。

しなだれかかってきた私を、奪い去るように抱き寄せたジークの胸元に私の頬が押し当てられた時、熱を含んだ空気が彼の胸元から放射して、香水の残り香から男の身体の匂いが漂った。

「優しいだけの男じゃ、優花を寂しくさせるからね。......このままオレの部屋まで連れて行くよ」

「……ダメ」

蚊の鳴くような声で口先だけの抵抗を見せる私に、ジークは聞く耳を持たない。

腕の中に閉じ込められるようにして、抱きすくめられた私は、彼のシャツを掴み、おぼつかない足取りでバーの外へ出た。

熱っぽい身体を夜風に撫でられると、幾分か意識が鮮明になったが、それでも支え無しで歩く事は難しい。

「一緒に帰ろう」

念を押すように、ジークは私の耳元に唇を寄せて低い声で囁いた。

彼の言葉に無言を貫く私の様子は、了承を得たとみなされて、ジークは私を片腕で抱きながら、もう片方の腕を高く挙げてタクシーを停めた。

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