愛人

愛人

星が瞬くように輝く寒空の下、私は街灯の光で照らされた交差点の片隅で人を待っていた。待っていると言っても、相手とはここで会う約束をしていないし、来るかどうかも分からない。それでも私は寒さで時折身体を揺らすも、ひたすら待ち続けた。
コートを着ていれば良かったと、クリーニングされたスーツとノリが効いたシャツを見る。清潔にされているはずなのに、何故か着心地が悪かった。
寒さで鼻を鳴らすと、甘ったるい匂いが私の鼻腔をくすぐる。香りの元へと視線を向けると女が一人、こちらへ向かって歩いていた。暗くてよく見えないが、女は両手に何かを抱え、ヒールを鳴らして私に近付いて来る。ヒールの音が止むと、女は電灯の下に立ち私に向かって笑いかけた。