蚤の心臓
だから彼は「上」じゃない。
1度だけ見えたのは、彼が屈んでいた時だ。
いつもならお尻のシルエットまで隠してしまうようなロングカーディガンを着ている彼が、その日はただの長袖のTシャツしか着ていなくて、だから屈んだ時に腰が覗いた。
背骨から恐らく脚にかけてかと思われる厚い裂傷。もしくは火傷痕。
皮膚が必死に再生しようとした痕跡が肌色の上に広がっていた。
桃色と茶色をグチャグチャに混ぜたような色がボコっと。1度抉れてしまったものの上に何度も何度も粘土を重ねて被せたかのような異物が、彼の腰には確かにある。
「事故に遭ったんだよ、小さい時に。だから下半身は汚いの」
犀麦は出会ってすぐの頃に私にそう説明をしてくれた。
そんなに?と古傷を想像していた私に対して彼は「わりと本気でね、グロい」とうすら笑いだけれど確かに拒絶を示していた。
あまりこれには触れるなよ、みたいな。それさえ触れなければおまえの傍にいてやるよ、的な。
その1点だけが確実に地雷なのだと分かったから、私も踏みこまないように、一瞬見えてしまった腰も見なかったことにして過ごしていた。
1度だけ見えたのは、彼が屈んでいた時だ。
いつもならお尻のシルエットまで隠してしまうようなロングカーディガンを着ている彼が、その日はただの長袖のTシャツしか着ていなくて、だから屈んだ時に腰が覗いた。
背骨から恐らく脚にかけてかと思われる厚い裂傷。もしくは火傷痕。
皮膚が必死に再生しようとした痕跡が肌色の上に広がっていた。
桃色と茶色をグチャグチャに混ぜたような色がボコっと。1度抉れてしまったものの上に何度も何度も粘土を重ねて被せたかのような異物が、彼の腰には確かにある。
「事故に遭ったんだよ、小さい時に。だから下半身は汚いの」
犀麦は出会ってすぐの頃に私にそう説明をしてくれた。
そんなに?と古傷を想像していた私に対して彼は「わりと本気でね、グロい」とうすら笑いだけれど確かに拒絶を示していた。
あまりこれには触れるなよ、みたいな。それさえ触れなければおまえの傍にいてやるよ、的な。
その1点だけが確実に地雷なのだと分かったから、私も踏みこまないように、一瞬見えてしまった腰も見なかったことにして過ごしていた。