蚤の心臓
犀麦が自分の家庭のことを話すようになったのは、彼が親戚へと会いに行ったあの夜からだった。
それは断片的なものばかりで、それもご家族のアルコールにまつわる話が大半だった。
嫌気がさして家を出るまでにあった出来事が断片的に断片的に。

ただ初めて知ったのは、彼にお姉さんがいたということだった。
あくまでも過去形だった。
今どうしてるのと聞いてみたら「死んだよ」と言われた。
数年前に、彼はご両親とお姉さんをいっぺんに亡くしていたようだった。
 
「事故だったんだよ」と彼は言った。
そこでようやく、「小さい時に犀麦さんも事故に遭ったって」と切り出すことができた。
「アレはうん、アレもそうなんだよね、うん」
犀麦さんは自分の膝を掻くように擦りながら頷いた。
朝から夜までずっと飲んでいるようなご家族で、素面の時なんて覚えている限りロクになかったらしい。
それで幼少期に1度事故を起こされて生死の境をさまよったそうで。
それから20年が経過した後2度めの事故が起こり、実家を完全に離れていた犀麦さんは巻きこまれこそしなかったもののご両親に献身的だったお姉さんはそれにより亡くなってしまったらしい。
 
犀麦さんの思い出話の中にお姉さんはあまり出てこない。
けれど、仲が良かったことやとても可愛がってくれたこと、歳の離れたお姉さんだったことは話してくれた。誰に似たのかとても美人だったんだよと彼は笑った。犀麦さんも綺麗なお顔なのだけれど、恐らくご両親のどちらかがこういった顔をしていたようで、彼はそれを酷く気にしていた。
ホスト時代から自分の容姿が気になりだしたと彼は言っていた。
親に似てきた顔をどうしても隠したかったと、親のようにガブガブとお酒を飲めるようになった自分にも嫌気がさして、その時から自分を顧みることが辛くなり始めたのだと。
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