蚤の心臓
「カフカちゃんはご家族の誰に似ているの」
そう言われ、私は困ってしまった。
私は彼とまた違った。
彼と違って、両親のどちらにも似ない顔を隠したかった。
申し訳ないと両親に対して長く負い目を感じていた。
化粧を覚えてからは母の顔に何度も何度も寄せようとした。
けれど生憎、私は母のように美人ではなかったし、父のように中性的な整い方もしていなかった。
認めたくない事実、私は美しい両親と違いとても不細工な子どもだった。
 
だから、たまに思ってしまう。
犀麦は犀麦の家庭に生まれなかったら、私みたいなブサイクを選ばなかったのではないかって。
彼を好きな女の子なんていくらでもいる中で、彼は自分に劣等感を抱いているから、自分を過小評価して居心地のいい方に逃げているだけなのではないかって。

多分絶対にそれなんだと思ってしまったら恥ずかしくて仕方がなかった。
そうさせるほどまでに犀麦の顔立ちは優しそうに甘く整っていて、彼の生い立ちには相応しくない程までに神聖だった。

彼は取り分が圧倒的に足りない。
けれど、彼がもしも正しく取り分を与えられてしまっていたらそれはきっと、どうしようもなく幸せな人生を送ってしまったに違いない。
私と同じバンドを聴くこともなく、誕生日はきっと友人たちか家族か恋人と過ごしただろうし、SNSのフォロワーを呼び出すようなことはしなかった。私たちは知り合うことなんてできなかった。
この人がこれだけの傷を背負っていてくれてよかったと思ってしまうことは正直ある。この人で良かった、28年をたった1人で生きてきたような人で良かった。

28年分この人を好きでいられたらと思う。
きっとそれは抱えるには大き過ぎて、背負うには重すぎて、私にそんなことできるはずもないのだけれど。それでも、彼よりもずっと彼のことを大切に思えたらそれが私にとっての幸せであるに違いない。
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