終わりで始まる進化論~第一部~


「たす、助けて……いやだ、誰か僕を…………助けて……」





声のする方へのやって来たナツキは力任せに教室のドアを抉じ開ける。教室の床に染み込んでいる黄色い液体に鮮やかな赤が混じりあっている。





いくつかの殻の様な物が散らばり、透明な粘液に包まれて横たわる人の姿。




それは、どれも顔を知っていた。隣で授業を受けていた者や、昼御飯を一緒に食べて談笑した者もいる。





しかし、彼らはもう動かない。あの夢の自分と同じ末路を辿ったのだろう。




そして、残ったただ一人も瞳から黄色い液体を垂れ流しながら、必死に助けを求めている。
それが誰なのかも直ぐに分かった。保健室で顔を見かけていたからだ。






「四宮……!」



そう、それは四宮光樹その人だった。





しかし、教室にたった一人その言葉にも何の反応を示すこともなく佇む人間がいる。
制服ではなく、黒のタンクトップにアーミー柄のズボン姿。





どこかの軍人を思わせる格好で刀を握ったまま四宮を見つめていた。
そして、握られた刀を上段構えに腕を持ち上げていく。






長い黒髪のポニーテールは窓から吹き抜ける風に揺れる。それは一瞬だが、とても静かで永い時間に思えた。





「やめっ……!」





先に声を出せたのはナツキだ。叫ぶと同時に走り出していた。



策がある訳でもなく、クラスメイトを護るために間合いに入ろうとしたが、剣士はその隙を与えない。



狙いを定めてからの迷いは無かった。彼の懐に飛び込んだかと思えば、刀は風を斬って振り下ろされる。





四宮の身体は赤い飛沫を教室に撒き散らし、虚ろな瞳へと変わりながら溶けて床に血溜まりを広げていく。




頬や腕には飛沫の痕を付けた剣士はゆっくりとナツキの方へ振り返る。
自分と余り年端も変わらない程の女の子が、刀を再び構え直す。





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