終わりで始まる進化論~第一部~
「あ……あ……やめ……」
情けないことに蛇に睨まれた蛙の様に、本当の恐怖に直面したときは人間も動かなくなるらしい。
頼む!動いてよ、俺の足!
彼女が間合いを詰めれば、恐らく四宮の二の舞になる。あの瞬発力に、とてもじゃないが平和ボケしたナツキは対応しきれる能力を持ち合わせていない。
逃げないと……殺される!
思わず側にあった椅子を持上げ、彼女に投げつけた。
震えが止まらない足でもどうにか振り上げながら、踵を返して駆け出していた。
どうする?どうすれば、上手く逃げられる?
冷静になろうとすればする程に焦りが生まれてくる。
おまけに足は恐怖の余り笑っている。
「くそっ!しっかりしてくれよっ、俺!」
奮い立たせて走っていたものの、膝から崩れるように視界が歪んだ。
スローモーションで自分の体が傾いていると同時に、ネクタイが締め付けられる感触から何者かに引き倒されていると気づいた。
が、その時には既に遅かった。
「がっ……うあっ!」
後頭部を強く打ち付けた衝撃で、頭から首根っこが痺れるように痛む。
次の瞬間には、剣士の女と視線があった。見下ろして切っ先を突き立てようと狙いを定めている。
もう追いつかれたのか!?
「こんのっ、やろ……!」
仰向けの状態から足を蹴りあげる。刀には当たらなくても良い、この女ならばきっとーー
刀を庇おうとした女の右手首に一発入れる事が出来た。
「…………つっ!」
咄嗟の受け身が仇になっただろう一瞬女の表情が歪む。