終わりで始まる進化論~第一部~
赤い絨毯にアンティーク調の家具が置かれ、古い洋館の雰囲気がある一室へ招かれる。
壁にかかっている女性が描かれた絵画も不気味で、夜になれば吸血鬼の一人や二人現れそうな雰囲気だ。
羽柴の趣味なのだろうか、彼は構わず特等席のソファーに腰掛けた。
「ああ、構わず適当に座ってください。大丈夫ですよ、変な悪戯はしてませんから」
「そんな心配してませんよ」
「そうなんですか……」
ピンク色の袋を見せながらも放り投げる。椅子の下に置いたら、音がなると言う子供だましの悪戯賞品。
まさか、ちゃっかり持っていたとは予想外である。少しがっかりした表情なのは仕掛ける気はあったのだろうか……。
慣れた様子で紅茶を淹れると、それを彼とナツキの傍に置く。マイペースな雰囲気を醸し出す羽柴だが、他人をもてなす作法は一応あるらしい。
「さて、本題に入りましょうか」
紅茶を一口飲んで、羽柴は瞳を細める。今までの空気は一変させるような緊張感が部屋に漂った。
「ナツキ君は倦怠閉鎖(けんたいへいさ)症というのをご存じですか?まあ、心身ともに疲労し自分自身を護るために心を閉ざしてしまう、という一種の鬱(うつ)の様な精神的な病気の症状なのですが」
「……まあ、今少なからず話題にはなってますから」
マスコミが最近取り上げるようになった病気の一つだ。
理由すらなくある日親や子、恋人など、身近な人物がこれによって連絡が取れなくなったり、引き込もってしまったりする病気の一種。
しかし、未だにこういった病気は理解も低く、怠け癖だと罵る人間も多くいる。しかし、事件性にも最近では発展してきたと聞いている。
それは、倦怠閉鎖症にかかった人間の姿を見る事は不可能なのだ。
家に引きこもっている人間も食事などは扉越しにやり取りされる事が前提であり、その姿を確認する事が出来ないらしい。
唯一救いなのが、他の鬱の症状を患う患者数より、倦怠閉鎖の患者は極めて少ないという事だ。
しかし、現在その原因が突き止められておらず、昨日まで元気だったのに、という症例ばかりなのだと報じられていた。
「話題、ですか。そうですね」