終わりで始まる進化論~第一部~
羽柴の表情はどこか納得の言っていない様子で、口振りも素っ気ない。何かを落ち着かせる様に紅茶を飲んで彼は口を開く。
「ナツキ君。私は、倦怠閉鎖症の人間を見たことがあります。そして……それは、あなたも同様です」
「え……?」
ドクン、と心臓が大きく跳ねた気がした。まだ分からないのに、ティーカップに添えられる指先は小刻みに震えている。
「彼らは突然無気力になり、体液とは言えない謎の液体を体に蓄積させて、殻の核(シェルズ・コア)と呼ばれる殻に閉じ籠るのです。その殻は見た目はとても、卵に近い形状をしています」
そして、羽柴は視線をナツキに向けた。全てを射抜く様に見透かし、さらに尋問をしようとする問いかけだ。
「ナツキ=ノースブルグ。あなたは、シェルズ・コアをご存じですよね?」
瞳から流れ出た粘液質の液体。夢の中でコンダクターという男に会い、ナツキはその症状を経験している。最期はシェルズ・コアでなく溶けてしまう夢だったが、クラスメイトは違った。
教室には殻の様な物が散乱していた。あれがシェルズ・コアなのだとしたら……。
「確かに、俺はその現象は知ってます。けど、たまたま目撃しただけで、詳しい話だって知らなかった!」
「ですが、あなたの学校であなたのみが、シェルズ・コアに侵食されていないのですよ。症状が稀(まれ)であるこの病気が、一区角において爆発的に蔓延(まんえん)し、対照的に全く症状が現れなかった人間が一人だけいる。これは、果たして偶然なのでしょうか?」
「どういう意味ですか?」
ナツキの表情は羽柴の話を聞いていくうちに険しくなっていく。しかし、羽柴はその態度に気にする様子も見せずに一方的に話を進める。
「私たちはシェルズ・コア……いえ、世間で言う倦怠閉鎖についての研究を進めています。倦怠閉鎖というのは、あくまでも巷(ちまた)に流せる情報です。精神的な病としていれば、多くの人は調べることも無いまま否定的な意見を返して終わるだけ。恐らくは政府もそれを狙っているのです。これ以上の混乱を防ぐために」
「混乱ですか。そうですね、あれは受け入れられる物じゃない。でも……」
身内が目の前で正体不明の液を垂れ流し生き埋めになる様な物だ。その現場を目撃すれば多くの人は気が狂うだろう。しかし、事実を隠蔽(いんぺい)するようなやり方が、まかり通って良いのだろうか?
その心中を察したのか否か、わずかに羽柴の表情は暗くかげる。