終わりで始まる進化論~第一部~

お粥が入った皿を手にしているノアという少女だ。悪意の無い笑顔を向けてくるが、今はそれに応える気はない。




むしろどういうつもりだ、とすら思う。こいつは、友人を手にかけたのだから。





「俺は要らないから」




お粥を差し出す彼女を突き放すように、扉を閉めようとするが、扉に足をかけられてしまう。






「なっ、何だよ!俺はいらないって!」





何なんだよ、こいつ。ナツキの苛立ちに更に拍車をかける。






押し付けてくる手を払おうとした所で、皿が宙に舞った。






粥はいくつかノアの服に張り付いて、床に溢れ落ちてしまう。





その粥の方へと視線を向けている彼女の仕草一つとしても、自分が悪いと責められているようで、ナツキは納得がいかなかった。






「どういうつもりだよ。こんな事した所で、お前は俺の友達の助けを聞き入れずに斬り捨てた!人殺しって事実は何も……!」





しかし、彼女はナツキの方を見ることもなく黙々と床に落ちた粥を皿に戻し始める。どこまで、人の事を馬鹿にしているのか。






「お前……俺の話をっ」
「無駄だ」






ナツキの怒声が聞こえてきたのだろうか、廊下にはシノミヤが立ったまま、様子を眺めているようだった。





無駄だ、か。




「そうだよ。無駄だよ。どうせ、お前達は俺らがどうなっても関係ないんだろ?だったら、こんな事意味無いじゃないか!」





「違えよ。そう言う意味じゃねえ」




「だったら何だよ!?俺が何言おうと関係なく殺すんだろ!クラスメイトのあいつらみたいに!無駄ってそう言う事だろ!」





ナツキの言葉に、シノミヤの視線が一瞬殺気を帯びるように鋭さを増した。何かを言いかけようとするのを拳を握りしめて堪え、ノアの傍にしゃがみこむ。






「だから、そう言う事全部、こいつに言ったって無駄だ。こいつに、お前の声なんか届いてねえよ」





「そうだよな。届くわけ無いよな。お前らみたいな奴にまともな神経……」





ナツキのそれは人格を否定するような言葉だった。



それを言いかけたその時、シノミヤは粥を指差す。それは、ナツキに向けてのものではない。ノアに教えるように×印を指で作って見せた。






「ノア、こいつは粥はいらねえらしい。分かるな?」






シノミヤの言葉に、いや、シノミヤの示した合図に反応をして顔を上げると、一旦ナツキを見つめたが頷く。






そして再び黙々と粥を手で集め始める。恐らくはまだ熱いであろうそれを拾い続ける。






「え……」




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