終わりで始まる進化論~第一部~
ナツキの頭は一瞬にして冷えていく。
その様子を見つめることしか出来なかったが、ゆっくりと立ち上がったシノミヤが瞳を細めてナツキを見据えていた。
「ノアはお前の声は届かねえ。お前の声だけじゃねえ、俺の声だって届いてねえよ」
「え……だって、そんな……」
ナツキをノアが起こしに来た時、羽柴にすんなり従って彼女は出ていったはずだ。
いや、違う。そう、あの時も羽柴は今のシノミヤと同じくノアにサインを送っていた。否定の×印だ。
してはいけない事、受け入れられないこと、そう言う意味での合図か何かなのかもしれない。
だから、ノアは大人しく部屋を出ていった。
まさか……。
「お前がいくら叫んで怒鳴った所で、こいつは半分も理解出来ねえよ。音が分からねえんだ、こいつは」
「あう。ううー」
床の片付けが終わったのかシノミヤの服の裾を掴んで、拾った事を見せようと皿を付きだし満面の笑みを浮かべている。
母親に誉められるのを待ってる子供のようだ。
シノミヤは彼女の頭に手を置くと、ノアは嬉しそうにどこかへ駆けていってしまった。
「あ……」
頭をぶつけた時以来の本当の彼女の声を聞いた。無口なのではない、言葉を伝えるのも、伝わるのも難しいのだろう。
ナツキが何かを口にしようとしたが、彼女はその反応に勿論きづく事もなかった。
その様子を見たシノミヤは小さく溜め息をこぼす。
「ちょっと来い。お前に色々と話がある」