終わりで始まる進化論~第一部~
ノアは居た。
もしかしたら、身の回りの家事などの一切は彼女に任されているのかもしれない。
キッチンで何やら野菜を切っている。
対進化生物。シノミヤはそう言っていたし、教室で対峙した彼女の強さは身をもって知っている。
けれど、こうして料理をする後ろ姿は普通の女の子だ。
「う?」
振り返った彼女は不思議そうに小首を傾げた。
視線を感じ取ったのか分からないが、ナツキは思わず見つめてしまっていた事に妙に動揺してしまう。
「あっ、いや、えっと、俺……あの、さっき、君に酷いことを言って、それで……えーっと」
彼女へ視線を向けると頭に疑問符を浮かべている様子である。
本当に口だけでは、彼女に伝わることなんてほとんど無いのだろう。
ナツキは思いきり頭を下げた。
「ごめん!俺、君の事……何も分かってないくせに、一人で暴走して、確かに君らがしてる事が正しいかは俺には分からないけど、でも、俺の言った言葉だって正しくはないって分かるから」
彼女を知らずに人格も何もかも否定し拒絶しようとした事は、今になってハッキリと言える。
それは、間違っていたことだ。
頭の中で整理した言葉が上手く言えたのか、彼女の伝わったかは分からない。
ただ、足音が少しずつナツキに近づいてきている。
ナツキの傍までやって来て止まった。そっと手を伸ばされて、髪が撫でられる。
少し顔を上げると、同年代くらいの女の子の微笑む顔があった。
あんなに彼女の事が怖かったはずなのに、彼女の笑顔を見た瞬間可愛いと思ってしまった。
男って言うのはつくづく単純な生き物だ。