終わりで始まる進化論~第一部~
「あ、会食ならノアだけじゃ間に合わなかったらいけねえし、俺も手伝って良いっすかね?春日井さんに、変なもんは出せねえし」
片手を上げたシノミヤは形だけの敬語を繕いながら、別件提案という方法で上手く面倒事から逃れようとしている事は目に見えて分かる。
既にしれっと頭にタオルを巻き始め準備を整え始めている所からも、ナツキに施設案内(むちゃぶり)が降りかかってくる可能性が高くなる。
「し、シノミヤ料理なんて出来たの!?無理はしない方が良いんじゃないかな?春日井さんだって変なものは食べさせ……」
「え?シノミヤ君の料理が久々に食べれるなんて嬉しいですね。ノア君のも美味しいですが、君の濃い味付けも好きなんですよね」
「あんたにしては意外な特技ね」
「特技って程のもんじゃねえけど、本部(こっち)の事をちゃんと見てもらう礼っすよ」
「……」
この場のちょっとした盛り上がりから、施設案内へと向かわせる度胸も知恵もない。
料理なんて言うスキルがあれば打破する事も可能だろうが、ナツキには自信のある一品がある訳でもない。
器用な奴というのは、こういったタイミングも上手く使うことが出来るのでナツキは今回も後手後手に回ることになってしまったのだった。
「それでは、ナツキ君が施設案内を宜しくお願いします」
「じゃあ、俺の分まで頑張って来いよ、ナツ」
「……はあ」
馴れ馴れしくあだ名を付け呼んでくるシノミヤの顔は、面倒事から抜け出せた解放感と、身代わりとなったナツキをからかってやろうという小馬鹿にした態度が見え見えで、気のない返事を返すのがナツキの精一杯の抵抗である。
隣からも物凄く不満そうなというよりも、最早そのまま射抜かれてしまうような殺気の視線が伝わってくるものの、全力で気づかないふりをした。