終わりで始まる進化論~第一部~
「うっ……羽柴さん、様子が変です」
戻って来たナツキが一番に感じたのは、刺激臭のような嫌な臭いだった。アリスを運ぶ前には感じなかったが、あの蝶の化け物が何か罠を仕掛けたのかもしれない。
袖で顔半分を覆いながらでも臭って来る。
「ナツキ君?」
少しでも状況を把握しようとする羽柴の声がナツキを呼ぶ。少し息苦しくなってきた気もするが、そんな事よりも羽柴の指示を仰ぐのが最優先だろう。
もしかしたら、この異臭の原因も調べてくれるかもしれない。
「さっきから、変な臭いが……少し目も痛いです」
「……変な臭いに、目。ナツキ君、気を付けてください。瘴気を発しているのかもしれません」
「瘴気?」
「はい。本来なら自然の中から生まれてくる毒素ですが、セカンドタイプが地中に潜っている間に毒素を発し、それが地上へと気体となって出てきているのかもしれません」
「そんなっ!このままじゃ、俺が時間を稼いでもシノミヤやノアだって……」
「……最悪、皆さん瘴気にあてられる事になります。それは何としても避けなければいけません。しかし、最良の策は今は……」
「だったら、俺が倒します!そうすれば、シノミヤもノアも、この瘴気にあてられる事はないはずです」
最良の策は無いわけではない。
ナツキが羽柴ならば、間違いなく自分自身で蝶の化け物を倒せと命令するはずだ。
羽柴自身分かってない訳ではないだろう。恐らくナツキでは最悪の状態も在り得ると言葉を濁したのだ。
アリスの言葉が頭の中を過った。羽柴もシノミヤも同僚や味方自身をどこまで信頼しているのか分からない。
だからこそ、ここが勝負時ではないだろうか?彼に少しでも認めて貰う場所である。
「時間との勝負ですね。分かりました。しかし、ナツキ君。申し訳ないですが、状況が状況です。無茶をするな、とは私は言えません」
「羽柴さん。指揮官っていつもそんな回りくどい言い方しかしちゃいけないんですか?」
羽柴の応答が暫しの間ナツキの問いかけによって途絶える。珍しい事もあるものだ、何かにつけて数倍にも増して返ってくる皮肉が聞こえないなんて。
ナツキ一人に任せることに、罪悪感でも感じているのだろうか?
まさかな。とナツキは思い直したものの、気が付いたら笑ってしまっていた。
不思議そうな声が漸く通信機越しに返ってくる。
「ナツキ君?」