終わりで始まる進化論~第一部~
「悪いけど入るぞ」
その雰囲気に割って入る声と共に、シノミヤが部屋へと入ってきた。
不機嫌なのか何時にも増してどこか険しい表情に怒っているのは想像できる。
いつもの荒々しい口調がどこか静かな雰囲気なのも逆に恐ろしい。
「シノミヤ……俺」
「足、平気なのか?」
「え……」
意外な言葉にナツキは目を丸くする。てっきり指示を聞かなかったことを、まず責められると思っていた。
だが、厳しい表情なのは変わらない。心配して、くれているのだろうか?
しかし、直ぐにナツキのシノミヤに対する株は大暴落する。
聞き返すとほとんど同時に、目の前の暴力男はナツキの太ももを布団の上から掴んだのだ。
「いだだだだだっ!!」
「ちょっと、シノミヤ!あんたねえっ!」
さすがにアリスが止めようとした所でシノミヤはあっさりと太ももを離す。
「……痛えのか?これ」
「あ、当たり前だよ!刺されてるのに、痛いに決まってるよ!普通、怪我人にそんな真似する!?」
「……。まあ、痛えよな。お前の場合、自業自得だけどな。勝手な真似するなっていい薬になっただろ」
悪魔だ。目の前にいる男は人の皮を被った悪魔か鬼に違いない。いや、ヤンキーの世界には度胸試し的な励まし方なのかもしれないが、ナツキには到底理解できない。
「普通に怒ってくれたほうがマシだよ!信じられない」
「怒って止めたところで暴走したアホはどこのどいつだよ!」
「だからって傷が開いたらどうすんだよ!」
シノミヤの反論はそこで止まってしまう。
何かを言いたげな表情を浮かべたままだが、それ以上ナツキに返ってくる事はなかった。
そういう顔をするのは、シノミヤは多い。
しかし、怪我の事を掘り返す気はそれ以上ないのか、アリスの方へと向き直る。