終わりで始まる進化論~第一部~
「それと、あんたは会食があるんだろ。所長が顔を出すようにってよ」




「……むかつく。それ嫌味のつもりなの?あたしに会食なんて、無意味じゃない」



「文句があんなら所長に言えよ。提案したのはあの人だ。俺に言ったって仕方ねえだろ。俺は拒否権なんて持ってねえよ」



「……行くわよ、行けば良いんでしょ」



気乗りしないため息だけを置いて、彼女はナツキの部屋を出て行ってしまった。
やはり最終的にはアリスでさえ、羽柴には逆らえないのだろう。




残ったシノミヤはナツキの足元へまだ視線を向けている。これ以上何かされるのは避けたい所なので、傷口が開かない程度にナツキは足を引っ込めた。





ついでに、シノミヤならアリスの事も少しは分かるのかもしれない。彼女があんなに会食を拒むのは何故なのだろう。





「ねえ、シノミヤ。春日井さん、会食も拒むくらい羽柴さんの事嫌ってるわけ?」





「言ってただろ?無意味だって。ノアに何かを聞かせようとするのと同じで、あいつにとって食うって事は無意味みてえなもんなんだよ」




「どういう事?」



「味覚が無えんだよ。前に聞いたことがある。恐らくはノアと同じ副作用だろうが、それ分かってて会食提案するあの人も、相当の性格だよな」




「でも、会食の話の時皆で盛り上がってたはずじゃ……」




いや、思い出してみればアリスはシノミヤの特技の意外性に驚いただけで、料理に対しては何の言葉も言ってなかった……。




「言ったろ?あいつに変な物は出せねえ。嗅覚や味覚の衰えてる人間にそんな物出したら、万が一の事があっても危機察知出来ねえだろ」




だからこそ、シノミヤはあの時料理の方を買って出たという理由もあったのだろう。




だとしたら、余計に理解できない。
何故、そんな面倒な手段をとってまで羽柴は会食を提案したのか。




「お前はここで食え。どうせまだ動けねえだろ」



「あ、うん。ありがとう」



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