終わりで始まる進化論~第一部~
「ありがとう、シノミヤ。俺、そろそろ……」
授業中に倒れたなら、まだ授業は続いているはずだ。
頭痛だって大したものじゃないし、何より保健室の匂いはあまり好きじゃない。
ベッドから降りて授業に出ても、もうそこまで支障はないはずである。
布団を退かせようとしたが、その腕をシノミヤに掴まれる。彼を見ると何故か目つきの悪い瞳を、更に細めていた。
「お前は寝とけ。まだ頭痛えんだろ?」
「いや、大丈夫だよ。別にもう治ったし……痛っ」
シノミヤの掴んでくる腕が痛む。心配しているという言葉の割には力が強いし、彼の視線は有無を言わせない雰囲気を醸し出している。
人相が人相だけに、真剣な表情の彼の様子も脅迫に近い雰囲気だ。沈黙が更に空気を重くしていく。
保健室に二人きり、教師も来ない閉め切られたベッドという密室の中、見つめあい互いにどちらともなく距離を縮めて……
「落ち着こう、シノミヤ!確かに、運んでくれたのは感謝してるし、でも、その……俺は、それだけだから!」
そうだ。お礼に深い意味なんてものはない。
出来れば二人きりは女の子が良かったし、心配されるのも女の子の方が嬉しいが、例え金髪ヤンキーでも運んでくれたお礼は返しておこうというのは寧ろ人間としての礼儀作法の一環だ。
コミュニケーションの一つの手段でもある。