誘拐日和




 ――高校2年生の春頃、当時の家庭教師を――ずっと好きだった人を、自室のクローゼットに閉じ込めた。


 相手は大学2年生で、とても優しい柔和な人だったけれど、彼には同級生のカノジョがいて。


 いつだったかに本で読んだ、ストックホルム症候群。それの真似をしようとした。食事もトイレも、私しか頼れる人がいなければ、カノジョなんかより、私を選んでくれるに違いないと思って。私の愛の大きさを知って、その上で私だけに依存してほしかった。


 けれど、所詮は子どもの立てた計画だ。恋人の行方を心配したカノジョの訴えによって、私の愛情表現はたったの3日で終わりを迎えた。


 父親に頬を打たれて、母親に泣かれて。だけど何が悪いのか分からなかった。愛しているからその全てを手に入れたかっただけなのに、解放された彼は私に胡乱な笑みを向けて私の愛し方を否定した。


 君は異常だと、君はオカシイと。そうはっきりと言ったのだ。


 そこでようやく、理解した。私の愛は普通ではないのだと。

 私はこんな風にしか人を愛せない、欠陥を抱えた人間なのだと知ってしまった。



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