誘拐日和
あの日揺れ動いていた糸遊、青すぎる空。奈落の笑みと破滅のにおい。色も感覚も、すべて昨日のことのように思い出せる。
私の犯した監禁罪は、警察の幹部にも顔が利く父親が握りつぶしたから、警察沙汰にも訴訟にもならなかった。けれどあの事件が原因で、私は両親から見放された。
父親のまるで害虫を見るような目つきも、母の泣き叫んで嘆く声も、未だ私の胸に焦げ付いている。
大学進学を機に自立させると体よく屋敷を追い出されて、両親とはそれ以来会っていない。
お盆やお正月に何度か自宅を訪ねたけれど、家政婦は決して私を家に入れてくれなかった。理由を訊ねても、「旦那様のお言いつけです」の一点張り。両親にとって、私はもう娘でも何でもないのだと実感した。
今回のことも、世間体を気にする両親のことだから捜索願くらいは出すだろうけれど、本心では私の心配なんてしてはいないだろう。
むしろ、いなくなってくれて清々したとさえ思っているかもしれない。――否、そもそも私が姿を消していることにすら、気づいていないかもしれないけれど。