誘拐日和
――終わりは突然だった。
いつものようにヒソカから朝食を与えられて少し経った頃、光の届かなかったこの部屋に、突然眩しい光が射し込んだ。重たいドアが勢いよく開かれ、人影が飛び込んでくる。
「唯!」
よく響く、バリトンの声が私を呼ぶ。トレードマークの亜麻色の髪を揺らし、肩で息をしているその人は。
「律……」
何度も夢に見た、会いたくて堪らなかった私の恋人。
「どうして……」
声が掠れて、語尾が涙でふやけた。慣れきってしまった歪な空間に律がいる、その光景には現実感がまるでない。けれど駆け寄ってきた彼は、私を痛いくらいに抱き締めてくれる。
「帰るぞ」
いつだって明るくて、正しくて、真っ直ぐなひと。後ろなんて振り返らずに、私を日向に連れ出してくれる。