誘拐日和
「唯……?」
「ごめんね。私、あなたと一緒には帰れない」
呆然とした瞳で、律が私を見つめる。切なく揺れる眼差しに、心の奥が苦しくなった。
あなたは優しい。きっと寝る間も惜しんで私を探して、警察ですら見つけ出せなかった私を見つけてくれた。
――だけどそれは、居なくなった恋人を真摯に心配する素直な愛情であって、決してヒソカのような歪んだ執着なんかではないでしょう?
「何を……俺がどれだけ心配したか、唯の両親がどれだけ唯の帰りを待っているか分かってんのか!?」
慟哭のようなそれがアスファルトに色濃く響く。私と両親の確執を彼は知らないから、律のその怒りは正当だ。それは分かっている。だからこそ、その心配を踏み躙ることが申し訳なくて堪らなかった。
でも、だめなの。誘拐を卑怯だと言い切った、あなたの隣には並べない。それに私、本当は。