誘拐日和



「だからこれは、誘拐なんかじゃなかったのよ。私は私の意思で此処にいるの」


 異常だと分かっているヒソカに、自分から捕まったのは最後の賭けだった。律にありのままの私を見せられないことが苦しくてくるしくて、ヒソカに殺されるかもしれないと覚悟の上で、それでもヒソカの愛し方を確かめたかった。


 ヒソカの歪んだ愛をこの身で受けて、ヒソカと律を天秤にかけたの。


「唯……本気で言ってんのか」

「ごめんね。でも、分かっちゃったの。あなたの愛は綺麗すぎる。私にはこれくらいの重さがちょうど良いの」


 本当は、律の隣に居ることがずっとずっと苦痛だった。

 濁りのない律の瞳に、表面だけを取り繕った“キレイな”私が映る度に吐き気がした。私には到底持ち得ない綺麗な感情を向けられる度、その劣等感に死にたくなった。


 気が狂いそうなくらいに重たい愛がほしかったけれど、純粋なんかじゃない本当の私を愛して欲しかったけれど、善良に生きている律にそんなことは言えなかった。


 私は綺麗じゃない。律みたいに透明なんかじゃない。ヒソカの言う通り、こんな私は、律の隣では未来永劫幸せにはなれないわ。



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