誘拐日和



「お願い、帰って。私はこのままで幸せなの。自分勝手なことを言ってるって分かってる。でも、あなたが好きでいてくれた、“藤宮 唯”はもう居ないから……だから、私のことは忘れてほしい」


 太陽のような笑顔。抱き締めてくれる時の温度。キスをする度、私の耳に触れる癖。全部全部愛しかった。

 私に向ける眼差しには、いつだって本物の慈愛の色が滲んでいて。間違いなく、律は私を大切にしてくれていた。でも、ごめんね。闇に塗り潰された私に、日の当たる場所は似合わなかった。


 律にはもっと、私より相応しい人がいる。そんな都合の良い台詞を吐くつもりはないけれど、あなたの隣は、私には眩しすぎるわ。


 自分勝手な女だと憎んでくれて良い。誘拐なんて非日常な事件に巻き込まれて、オカシクなってしまったんだと思ってくれても良い。


 だけどもう、私のことは忘れてほしい。


 ヒソカが私のすべてを受け入れると言ったから、私はもう、あなたが好きでいてくれた、“善良な藤宮 唯”には戻れない。



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