誘拐日和



「良かったの? せっかくキミを悪者から救いに来てくれたのに」


 傍観を決め込んでいたヒソカが、いつもと同じ声音で問う。けれどヒソカは、私がこちらを選ぶと分かっていたのだと思う。


「良いの。私は、律に心から愛してはもらえないって分かったから」


 丸ごと君を愛してあげるよと、そう言ってくれたヒソカの言葉にぞくぞくした。私の声に理解の色を欠片も滲ませなかった、律の瞳に失望した。


 ごめんね、律。私だってあなたのこと、きっとちゃんと好きだった。好きだったから苦しかった。でも、違うの。あなたは私の理想じゃないの。


 たとえば私が死んでも、あなたは私の後を追って死のうとはきっと思わないでしょう。心が壊れる程に泣いてくれても、いつかは他の誰かと恋をしてしまう。キレイに生きている人を見つけて、キレイに恋をして、そして私を忘れてしまう。


 たとえば私があなたを閉じ込めたら、あなたは何と言うかしら。きっとあなたはあの人と同じように、私をオカシイと嗤うでしょう。


 “重さ”が分からないとあなたは言ったけれど、詰まりはそういうことなのよ。私が望んでいるのは、その程度の愛じゃあないの。



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