誘拐日和
「もう僕以外のこと考えちゃ駄目だよ。ほら、あーん」
何度か啄むような口づけを重ねて、ヒソカの機嫌は直ったらしい。そう促されて小さく口を開けると、少量のリゾットを乗せた銀の匙が滑り込んでくる。
咀嚼して飲み込んで、与えられて、また咀嚼しての繰り返し。単調な食事はいつものことで、味も温度も分からなかった。
一日中ベッドの上に繋がれていて、食欲なんて湧く筈がないのだけれど。一度私が食事を拒んだ時、ヒソカは無理にでも私に食べさせようとして譲らなかったから、味気ない食事でも大人しく口を開くことにした。
「……ごちそうさま」
「今日も残さず食べられたね。イイ子イイ子」
空になった皿を見て、ヒソカが満足そうに私の頭を撫でる。優しさを真似たようなその手つきは、宝物に触れるかのような危うさを孕んでいた。
ヒソカはいつもそうだ。さっきのように怒ることはあっても、私にはいつも優しく触れる。乱暴なことをされたのは、此処に閉じ込められたあの日だけだ。