誘拐日和
チェストに置いた盆の上で、空になった食器を重ねているヒソカをちらりと見る。この男の目的は、一体どこにあるんだろう。
口づけを求められるのは日常茶飯事だけれど、それ以上のことを要求されたことはない。私が逆らわない限り手を出すつもりもないようだし、かといって金銭が目当てというわけでもなさそうだ。
食事は1日に2回、時間は私には分からないけれど、おそらく朝と夜に、ヒソカがこの部屋に運んでくる。
ヒソカは常に私のそばにいるわけではなくて、ヒソカがこの地下室を訪れるのは食事の時と、私にシャワーを浴びさせてくれる時、それと私が眠る時くらいだ。けれどこの部屋には監視カメラが設置されているから、そばにいなくても十分私を監視することは可能だろう。
狭いベッドで、ヒソカはいつも私を抱き締める。けれどどうやら、ヒソカは私が眠った後にそっと部屋を出ていくらしい。私が起きると、いつもヒソカは隣には居ないから。
ヒソカが普段何をしているのかも知らないし、テレビも新聞もないこの部屋では、世間で私のことがどう報じられているのかも分からない。誘拐か失踪か、それとももう死んでいるものだと思われているのか。
ふたりだけの箱庭をつくって、ヒソカは何がしたいんだろう。私をこうして閉じ込めておくだけで満足しているかのように、ヒソカはいつも私の名を呼んで笑うのだ。