cold tears
汗だくになった客を横目に、ムッとしたライブハウスを出ると、一気に虚しさが込み上げてきた。
満足そうな顔、幸せそうな顔、ステージを包み込む演者と客の熱気さえもどこか羨ましくて、思わず目を逸らしてしまう。
帰り道、すぐに家に帰る気にもなれなくて、青山のバーに寄ることにした。
2つ年上の政人が私の二十歳の誕生日の夜に初めて連れてきてくれた場所。
それからは2人では勿論、1人でも来るようになった。
けれど、政人が亡くなってから、1度も来ていない。
「いらっしゃいませ…...っルカちゃん。」
私を見て、少し驚いた顔をした彼は、この店のバーテンの向井さん。
私より5つ上のベテランさん。
「政人くんの事......残念だったね......あまり何て言ったらいいか分からないけど......。」
少し暗い顔をした向井さんに笑顔を向ける。
「いえ。凄くショックでしたし、今もショックですけど、前に進まなきゃ、ダメだから。」
私がそう言うと、向井さんも笑顔を零した。
「ルカちゃんは強いね。......ご注文は?」
「カミカゼで。」