cold tears
強いね、か。
全然強くなんかないし、前に進まなきゃ、なんて嘘。
そんな事まだこれっぽっちも思ってない。
その証拠に、政人から貰った指輪はまだ左手の薬指に寂しく嵌められている。
どうぞ、と置かれたカミカゼに口をつける。
お酒は久しぶりだった。
今飲めば、お酒に呑まれそうな気がして避けていた。
けれど、その心配はなさそう。
ただ、どうしても色んなことが走馬灯のように頭を駆け巡る。
高校の時、初めて政人と出会った時のこと。
付き合い始めた時のこと。
私が大学に入ってからすぐに初めて喧嘩した時のこと。
仲直りした後に、ぎゅっと抱きしめてくれた時のこと。
初めてこの店に来て、お酒を飲んだ時のこと。
クリスマスの日に、プロポーズされた時のこと。
全部、全部、大事な大事な事実で、まだ思い出なんかにしたくないくらい。
ただ政人がいない世界をボーッと過ごしている。