cold tears
「あの.........。」
隣に座っていた男の人に声をかけられた。
私が気づかないうちに隣に誰か座っていたようだ。
「はい...?」
彼は恐る恐る私に尋ねた。
「もしかして、さっきライブ来てくれてました......?」
ライブ......?
あぁ、ライブ。一瞬何のことか分からなかったが、すぐに理解した。
「......はい。」
「あの......今日のライブ...つまんなかった...ですか?」
またしても恐る恐る聞く彼はいったい誰...。
まぁ、どうでもいいか。
「いえ。楽しかったですよ。」
嘘、どんなバンドだったとか、どんな曲だったとか、全く覚えていない。
「ねぇ、それ嘘でしょ?......ちゃんとステージから見えてるからわかるよ。」
彼はクスリと笑いながらそう言った。
ステージ......ってもしかして、と思い、視線を横に向けた。
向けたものの、さっきまで見ていたバンドの顔すら覚えていないから、あまり意味はなかったけれど、きっと彼はさっきのバンドの人だろう。
「その顔は、俺のこと分かんないって顔だね。ふふ。まぁいいや、じゃあ自己紹介しとくね、Grasshopperの牧田 寛希です。」
Grasshopper。間違いないみたい。
そして彼は、君は?、と言う顔をしているので一応名乗る。
「...ルカです。」
ルカちゃん、と名前を静かに呼ばれて、コクリと頷く。