無駄チョコ
☆☆☆
「おい、そんな湿気た顔して何してんだ。」

同期のあいつはそう言いながら、コピー機の前に立ってる私の頭を軽く叩いた。

「コピーですけど。」

あいつを見ずに憮然と答える。

「お前、俺の前ではいつもその顔だな。もう少しかわいげのある顔はできないのかよ。」

「そういう態度取ってくる相手にはこういう顔になるんです。」

私はそう言うと、出来上がった印刷物を取り出し横のテーブルで揃えた。

「あ、そうそう。」

あいつは作業を始めた私の横に座った。

「今日バレンタインデーだけど、俺甘い物だめなんだ。」

「だから?」

「もし用意してくれてたら申し訳ないなぁと思ってさ。」

「は?」

私は視線を上げて、ようやくあいつの顔を見た。

いつも冷静で切れ長の目は僅かに私を試している。

そして、相変わらず減らず口を叩く奴の口元は少し緩んでいた。

「残念ながら用意してません。」

私はまた視線を外して言った。

あいつの舌打ちが聞こえる。

作業を進めながら、どうか・・・どうかこのドキドキがあいつに聞こえませんようにと祈っていた。

だって、本当は用意してるんだもん。

恐らく私の事なんて友達としてしか見てないだろうあいつに。








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