God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
〝何もするな〟
受験の色濃く。
1階の3年フロアは、暗~く、沈んでいた。
すでに推薦が決まった先輩は目に見えて顔色を取り戻しているものの、まだこれからという先輩は、やっぱり分かり過ぎる程、青ざめている。睡眠不足と運動不足が祟っているとしか。……来年の自分の姿だな。
その幻と先輩を重ねて、今は心の中、ささやかに祈りを捧げておくとする。
松下さんは、これからセンター試験、国立受験、その間に、あまたの私立一般を控えていると、それは聞いて知っていた。永田さんは確か、推薦で私立大に決めたとか何とか……そこら辺の詳しい事情を確かめるべく、ここに来るまでの間、まずは弟の永田に訊いたところ、
「オレに訊くな。当然そこのビッチが知ってんだろッ」
「そんな態度で選挙に勝てると思ってる?女子はポンコツを支持しません」
「黙れッ。この腐れオンナ眼鏡市場ッ!」
「もう聞こえない」
因縁の2人が、またまた言い争いになる。
(眼鏡市場……それには黒川もピクリと反応。)
永田さんの近況は?その肝心の答えに辿り着かないまま、3年1組に到着してしまった。廊下から中の様子を窺ってみたものの、そこに右川の姿は無い。
5時間目が自習だという永田さんは、俺達を見て近寄ると、「さっき来たよ」と教えてくれた。
来たのか。だけどもう居ない。そんな簡単な話じゃ終わらない筈だが。
見ていると、永田さんの顔色はすこぶる良くて、聞けばやっぱりというか、
「もう決まったから、呑気なもんだよ」
すぐ横の先輩がピクリと反応して、再びどこかの赤本に撃沈。その横では男子の先輩が、思わせぶりに咳込む。ゾロゾロとやってきた俺達御一行を1度はジロリと睨み、いつだったか、「生意気なんだよ!」と絡んだ迫力をその目に滾らせてはいるものの、ムダな体力を使う事を1秒で放棄して、欲望の全てを諦め、悟りきった、まるで修行僧の体である。
永田さんに、まずは頭を下げる。
右川に元からやる気がないのは分かっていたけれど、永田さんが担いでくれたら考え直すかもしれない。よろしく、という意味を込めて。
「右川から、選挙の事で何か聞いてませんか」
「いや、何にも」
だったらアイツはここに一体、何しにきたのか。
「また占ってもらったみたいだけど」
永田さんが顎で指したその先、1人、女子の先輩がスッとやってきた。
ショートカットで元気一杯、もうはっきり分かる程に化粧もしている。
この先輩も何処かに決まったんだな……そんな事をぼんやり考えていると、
「あ・た・し。アラブの愛人だよーん。忘れちゃった?」
え。
全く気付かなかった。てゆうか、文化祭の、あの面影はスッ飛んでいる。
「あれは相当、造り込んだからね」と、声だけ聞いていると、何となく思い出したけど。
「う、占いィ!?あのチビ、とうとうオカシクなったんじゃ……」
永田がそう思うのも頷ける。だが、この先輩の占いは。
「ちなみに、右川の占いって、どう出ました?」
何か選挙に役立つような手掛かりでも何でも欲しくなって、訊いてみると、
「えっとー、恋の行方はねー」
「そっちはいいです」
〝女神の天秤、大きく傾く。北風と太陽。旅人は最後にコートを脱ぐ。攻撃は最大の防御〟
横から永田さんが教えてくれた。
北風と太陽。
対立候補は暑苦しいバカと、凍りついてカチカチの重森と言う事か。
そこだけ聞いたら、分析は冴えている。その通りかもしれない。
だが右川が自ら攻撃を仕掛けるほど意識が高いかと言うと、それには程遠い。
「確かに、誰かのせいで傾いたな」
その永田さんの一言で、周りの目線が一斉に俺に集まった。
当然、ご存じ。バスケ部の敵、吹奏楽のイヌに落ちぶれた、俺です。
だが意外にも永田さんは、「スパイ作戦か。今年も面白そうだな」と、穏やかに笑い飛ばした。
何も知らせないまま卒業……それは少し胸が痛む。
自分だったら、知っておきたい気がする。
そこで阿木が、「もう授業始まってるから。後でメールするね」と、彼氏にそれだけを言い残して出て行った。黒川が、「飽きた」と言ってそれに続く。
「んじゃ、オレも飽きたッ」と、背中を向けた弟を、「おい」と永田さんは引き止めた。同時に占い女子が弟の肩を掴んで、
「キミ。最近、何かあったでしょ?」
「へ?」
「最近、彼女と別れた?」
「おう。おうおう。そーっすよ。別れたっすよ。何で知ってんのッ!?」
それは……霊感は無くとも、世間を知っていれば簡単に手に入る情報だ。
だが永田は、その女子の持つ、異様な目ヂカラの魔力に一瞬で引きこまれてしまうと、
「大丈夫。新しい出会いが待ってる。イケてるあの子。大きな胸が目印。会長選挙……勝利も彼女も、キミ次第だね」
それを聞いた永田は拳を突き上げて、「おおおーッ!」と、雄叫びをあげた。
そこら中の3年生がギロリと睨め付けるのも構わず、
「マジか?!すげー!こうなったら何が何でもオレ様が会長だからなッ!」
永田は、意気揚揚と3年クラスを後にする。
「あの、これって……」
永田さんと占い女子は俯いて……というか、笑いを堪えてピクピクしていた。
「弟クン……俄然、やる気になったわよ。単純すぎて神。くくく」
「我が弟ながら、簡単だな。すぐバレちゃうかと思ったけど。どう?」
何を尋ねられたのか分からないまま、俺は曖昧に笑う。(しかない。)
「これぐらい仕込んで選挙に貢献しないと、仲間にド突かれる」
弟は失恋してモチベーションがダダ下がり。吹奏楽に負けたらどうすんだ?どうにかしろと、永田さんはバスケ部の仲間から突き上げられたらしい。
「今日になったら意外と元気でさ。無駄な事したかも」
「ちょっと、オゴってよ。ウソつくなんて初めてなんだからね」
そこで仲間の誰かに呼ばれたと、占い女子は声のする方、仲間の輪の中に入って行った。
1階の3年フロアは、暗~く、沈んでいた。
すでに推薦が決まった先輩は目に見えて顔色を取り戻しているものの、まだこれからという先輩は、やっぱり分かり過ぎる程、青ざめている。睡眠不足と運動不足が祟っているとしか。……来年の自分の姿だな。
その幻と先輩を重ねて、今は心の中、ささやかに祈りを捧げておくとする。
松下さんは、これからセンター試験、国立受験、その間に、あまたの私立一般を控えていると、それは聞いて知っていた。永田さんは確か、推薦で私立大に決めたとか何とか……そこら辺の詳しい事情を確かめるべく、ここに来るまでの間、まずは弟の永田に訊いたところ、
「オレに訊くな。当然そこのビッチが知ってんだろッ」
「そんな態度で選挙に勝てると思ってる?女子はポンコツを支持しません」
「黙れッ。この腐れオンナ眼鏡市場ッ!」
「もう聞こえない」
因縁の2人が、またまた言い争いになる。
(眼鏡市場……それには黒川もピクリと反応。)
永田さんの近況は?その肝心の答えに辿り着かないまま、3年1組に到着してしまった。廊下から中の様子を窺ってみたものの、そこに右川の姿は無い。
5時間目が自習だという永田さんは、俺達を見て近寄ると、「さっき来たよ」と教えてくれた。
来たのか。だけどもう居ない。そんな簡単な話じゃ終わらない筈だが。
見ていると、永田さんの顔色はすこぶる良くて、聞けばやっぱりというか、
「もう決まったから、呑気なもんだよ」
すぐ横の先輩がピクリと反応して、再びどこかの赤本に撃沈。その横では男子の先輩が、思わせぶりに咳込む。ゾロゾロとやってきた俺達御一行を1度はジロリと睨み、いつだったか、「生意気なんだよ!」と絡んだ迫力をその目に滾らせてはいるものの、ムダな体力を使う事を1秒で放棄して、欲望の全てを諦め、悟りきった、まるで修行僧の体である。
永田さんに、まずは頭を下げる。
右川に元からやる気がないのは分かっていたけれど、永田さんが担いでくれたら考え直すかもしれない。よろしく、という意味を込めて。
「右川から、選挙の事で何か聞いてませんか」
「いや、何にも」
だったらアイツはここに一体、何しにきたのか。
「また占ってもらったみたいだけど」
永田さんが顎で指したその先、1人、女子の先輩がスッとやってきた。
ショートカットで元気一杯、もうはっきり分かる程に化粧もしている。
この先輩も何処かに決まったんだな……そんな事をぼんやり考えていると、
「あ・た・し。アラブの愛人だよーん。忘れちゃった?」
え。
全く気付かなかった。てゆうか、文化祭の、あの面影はスッ飛んでいる。
「あれは相当、造り込んだからね」と、声だけ聞いていると、何となく思い出したけど。
「う、占いィ!?あのチビ、とうとうオカシクなったんじゃ……」
永田がそう思うのも頷ける。だが、この先輩の占いは。
「ちなみに、右川の占いって、どう出ました?」
何か選挙に役立つような手掛かりでも何でも欲しくなって、訊いてみると、
「えっとー、恋の行方はねー」
「そっちはいいです」
〝女神の天秤、大きく傾く。北風と太陽。旅人は最後にコートを脱ぐ。攻撃は最大の防御〟
横から永田さんが教えてくれた。
北風と太陽。
対立候補は暑苦しいバカと、凍りついてカチカチの重森と言う事か。
そこだけ聞いたら、分析は冴えている。その通りかもしれない。
だが右川が自ら攻撃を仕掛けるほど意識が高いかと言うと、それには程遠い。
「確かに、誰かのせいで傾いたな」
その永田さんの一言で、周りの目線が一斉に俺に集まった。
当然、ご存じ。バスケ部の敵、吹奏楽のイヌに落ちぶれた、俺です。
だが意外にも永田さんは、「スパイ作戦か。今年も面白そうだな」と、穏やかに笑い飛ばした。
何も知らせないまま卒業……それは少し胸が痛む。
自分だったら、知っておきたい気がする。
そこで阿木が、「もう授業始まってるから。後でメールするね」と、彼氏にそれだけを言い残して出て行った。黒川が、「飽きた」と言ってそれに続く。
「んじゃ、オレも飽きたッ」と、背中を向けた弟を、「おい」と永田さんは引き止めた。同時に占い女子が弟の肩を掴んで、
「キミ。最近、何かあったでしょ?」
「へ?」
「最近、彼女と別れた?」
「おう。おうおう。そーっすよ。別れたっすよ。何で知ってんのッ!?」
それは……霊感は無くとも、世間を知っていれば簡単に手に入る情報だ。
だが永田は、その女子の持つ、異様な目ヂカラの魔力に一瞬で引きこまれてしまうと、
「大丈夫。新しい出会いが待ってる。イケてるあの子。大きな胸が目印。会長選挙……勝利も彼女も、キミ次第だね」
それを聞いた永田は拳を突き上げて、「おおおーッ!」と、雄叫びをあげた。
そこら中の3年生がギロリと睨め付けるのも構わず、
「マジか?!すげー!こうなったら何が何でもオレ様が会長だからなッ!」
永田は、意気揚揚と3年クラスを後にする。
「あの、これって……」
永田さんと占い女子は俯いて……というか、笑いを堪えてピクピクしていた。
「弟クン……俄然、やる気になったわよ。単純すぎて神。くくく」
「我が弟ながら、簡単だな。すぐバレちゃうかと思ったけど。どう?」
何を尋ねられたのか分からないまま、俺は曖昧に笑う。(しかない。)
「これぐらい仕込んで選挙に貢献しないと、仲間にド突かれる」
弟は失恋してモチベーションがダダ下がり。吹奏楽に負けたらどうすんだ?どうにかしろと、永田さんはバスケ部の仲間から突き上げられたらしい。
「今日になったら意外と元気でさ。無駄な事したかも」
「ちょっと、オゴってよ。ウソつくなんて初めてなんだからね」
そこで仲間の誰かに呼ばれたと、占い女子は声のする方、仲間の輪の中に入って行った。