God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
〝吹奏楽が部をあげて、次期生徒会長・重森くんを盛り上げる会〟
どうにも、イライラが収まらない。
次の日から早速、バスケ部武闘派が休憩ごと、入れ替わり立ち替わり、俺の元にやって来る。
「ホントは、ずーっと永田先輩を恨んでたろ。それで、ここに来て復讐か」
「根性腐ってるゼ。くそバレー部」
「スイソー女子を献上されたか。マイコか。ユカリか。ビッチだらけ」
3人共、俺よりも背が低い。なのに、この威圧感。
ガチでは絶対に叶わないと知っている。
授業が終わる。また、ヤツらがやってくる。
だからというワケじゃないが、俺は休憩中、立て続けに5組を訪問した。
ここでは毎度のように右川にナメられ、ノリには冷たく無視されて、放課後に至る。
生徒会室に入る前、偶然通りがかったバスケ部女子2人組から、どう見てもワザとな体当たりを喰らって。
「あー、ゴメン。つーか、そっちが邪魔だワ。消えろバカ」
「ついでに死ねばいいのに」
一応女子だから!こっちが何も出来ないのを!いい事に!
生徒会室に入った途端、我慢が利かなくなり、勢い、思わず椅子を蹴飛ばすというストレス暴挙に出てしまったら、たまたまそこに遊びに来ていた阿木の友達だという書道部の同輩女子をドン引きさせてしまう。
「また右川先輩とケンカしたんですかぁ?」
そこへ、何も知らない無邪気な笑顔で、浅枝がやってきた。
選管から校内放送を任されたと、ニコニコと選挙の賑わいをブチ上げる。
ヴァイオレンスな雰囲気をあっさりかわされて、こっちは何だか急に小っ恥ずかしくなった。倒れた椅子を丁寧に戻して、俺はとりあえず大人しく座る。
同輩女子は、未だ、少々怯えて、
「……せ、選管の仕事って、生徒会の人がやっていいの?」
訊かれた浅枝が、「んーとですね。えーとですね」と心許ない。
「選挙管理委員会のもと、生徒会は選挙については事実上、凍結。つまり、生徒会の権力でもって選挙に干渉してはいけない」
何かを読み上げるように、阿木がサラサラと答えた。
とかいって、2人も選管入りしている。
つまりこれは、絵にかいたような建前だ。
事実、生徒会が公認を謳って候補を立てるのは、干渉以外の何物でもない。
ただ〝公認〟とお墨付きを与えるだけ。
つまり表だって動かなければ、どう関わっても許されてきた。
バスケと吹奏楽が交互に関わってきた生徒会。そんな、これまでの歴史が生み出した弊害であり、ある意味、都合よく使えるグレーゾーンである。
「私も浅枝さんも単なるお手伝いだから、いいのよ。選管の雑用係」に続けて、「沢村くんと一緒ね」と余計な事まで説明に入れた。
これまたテーブルをひっくり返したくなる。
「沢村先輩みたいに、特定の候補者を手伝ってもいいんですか?」と、浅枝が訊いた。
「書記の立場を利用しなきゃいいのよ。つまり、利権が絡んじゃダメ。お金とか」
「お金?」
「例えば、予算を倍にする約束で、バレー部員を重森くんに投票させるとか」
そんな、後で俺自身が面倒くさいこと、頼まれてもやるもんか。
そんなやりとりを背中で聞きながら、俺は、昨日渡された草稿を開いた。
重森の演説草稿。
その推敲を頼まれたのだが……。
こんなの吹奏楽で好きなように作っときゃいいのに。
実状、応援部員が「面倒くさい」と言った事は全部、俺に投げられた。
阿木の言う通り、都合の良い雑用係だ。
便利に使われ、バスケ部から目の敵にされて、今日はバレー部が体育館を独占できる日だと言うのに、俺は部活に行く気になれず、ここに逃げ出して。
あれから、ノリとはパスも組めず、というか無視されて、思うまま部活を楽しむ事も出来ない。
〝無視〟
嫌味より、罵倒より、貧乳女子の体当りより、これが1番こたえた。
ネチネチと……おまえは女子か?女子なのか?
書道部女子が出て行った頃を見計らって、「今の時点で、まだ右川を説得できてない」と、ここで阿木&浅枝に近況を伝えた。
「そんなに嫌なんですかね。生徒会、右川先輩と一緒にやれたら楽しいのに。残念だなぁ」
「残念とか言うなよ。まだこっちは諦めてないんだし」
阿木は訳知り顔でちらりと一瞥を加えると、
「ちょっとは違う方法考えたら?あの子は頭の回転が速いから、言葉じゃ叶わないでしょ」
「言葉じゃなきゃ何だよ」
「お金とか物とか」
俺の記憶が確かなら、その類は禁止だと、先ほど貴女が仰ったばかりですが。
「あーほんと、どーして、こう厄介なんだろ」
ノリも、チビも。
「ったく、どいつもこいつも、女子かよ」
そこは頭の中で考えたつもりが、うっかり口から出てしまう。
この場の女子2人がドン引き。ヤバいと思ってからでは遅かった。
阿木が「帰りましょう。女子は」と冷ややかに立ち上がる。
浅枝も凍りついたまま、「帰ります。女子は」と追従した。
阿木は部屋を出る前に振返り、「あ、沢村くんのボスが呼んでた」とか言う。
ボス。
重森のことか。
「〝吹奏楽が部をあげて、次期生徒会長・重森くんを盛り上げる会〟今日だっけ?」
……聞いている。
公示前だというのに、早くもフライング。どういう宣伝効果を狙っているのか知らないが、選挙に乗じて部の栄華をひけらかすとしか思えない。
永田バカが大騒ぎしなければいいけど。
当の重森は、「派手にやるからな」と、やぶさかでない、まんざらでもないという様子だが、俺はどうにも気が乗らない。重森を盛り上げる事に、正直どんどんシラけてくる。
腕を組んで、しばらく目を閉じた。
すると阿木が、
「すぐ行って。私が意地悪して伝えなかったとか、嫌味を言われたくないんですけど」
「へいへい」
足取り重く、その舞台となる中庭に向かった。
次の日から早速、バスケ部武闘派が休憩ごと、入れ替わり立ち替わり、俺の元にやって来る。
「ホントは、ずーっと永田先輩を恨んでたろ。それで、ここに来て復讐か」
「根性腐ってるゼ。くそバレー部」
「スイソー女子を献上されたか。マイコか。ユカリか。ビッチだらけ」
3人共、俺よりも背が低い。なのに、この威圧感。
ガチでは絶対に叶わないと知っている。
授業が終わる。また、ヤツらがやってくる。
だからというワケじゃないが、俺は休憩中、立て続けに5組を訪問した。
ここでは毎度のように右川にナメられ、ノリには冷たく無視されて、放課後に至る。
生徒会室に入る前、偶然通りがかったバスケ部女子2人組から、どう見てもワザとな体当たりを喰らって。
「あー、ゴメン。つーか、そっちが邪魔だワ。消えろバカ」
「ついでに死ねばいいのに」
一応女子だから!こっちが何も出来ないのを!いい事に!
生徒会室に入った途端、我慢が利かなくなり、勢い、思わず椅子を蹴飛ばすというストレス暴挙に出てしまったら、たまたまそこに遊びに来ていた阿木の友達だという書道部の同輩女子をドン引きさせてしまう。
「また右川先輩とケンカしたんですかぁ?」
そこへ、何も知らない無邪気な笑顔で、浅枝がやってきた。
選管から校内放送を任されたと、ニコニコと選挙の賑わいをブチ上げる。
ヴァイオレンスな雰囲気をあっさりかわされて、こっちは何だか急に小っ恥ずかしくなった。倒れた椅子を丁寧に戻して、俺はとりあえず大人しく座る。
同輩女子は、未だ、少々怯えて、
「……せ、選管の仕事って、生徒会の人がやっていいの?」
訊かれた浅枝が、「んーとですね。えーとですね」と心許ない。
「選挙管理委員会のもと、生徒会は選挙については事実上、凍結。つまり、生徒会の権力でもって選挙に干渉してはいけない」
何かを読み上げるように、阿木がサラサラと答えた。
とかいって、2人も選管入りしている。
つまりこれは、絵にかいたような建前だ。
事実、生徒会が公認を謳って候補を立てるのは、干渉以外の何物でもない。
ただ〝公認〟とお墨付きを与えるだけ。
つまり表だって動かなければ、どう関わっても許されてきた。
バスケと吹奏楽が交互に関わってきた生徒会。そんな、これまでの歴史が生み出した弊害であり、ある意味、都合よく使えるグレーゾーンである。
「私も浅枝さんも単なるお手伝いだから、いいのよ。選管の雑用係」に続けて、「沢村くんと一緒ね」と余計な事まで説明に入れた。
これまたテーブルをひっくり返したくなる。
「沢村先輩みたいに、特定の候補者を手伝ってもいいんですか?」と、浅枝が訊いた。
「書記の立場を利用しなきゃいいのよ。つまり、利権が絡んじゃダメ。お金とか」
「お金?」
「例えば、予算を倍にする約束で、バレー部員を重森くんに投票させるとか」
そんな、後で俺自身が面倒くさいこと、頼まれてもやるもんか。
そんなやりとりを背中で聞きながら、俺は、昨日渡された草稿を開いた。
重森の演説草稿。
その推敲を頼まれたのだが……。
こんなの吹奏楽で好きなように作っときゃいいのに。
実状、応援部員が「面倒くさい」と言った事は全部、俺に投げられた。
阿木の言う通り、都合の良い雑用係だ。
便利に使われ、バスケ部から目の敵にされて、今日はバレー部が体育館を独占できる日だと言うのに、俺は部活に行く気になれず、ここに逃げ出して。
あれから、ノリとはパスも組めず、というか無視されて、思うまま部活を楽しむ事も出来ない。
〝無視〟
嫌味より、罵倒より、貧乳女子の体当りより、これが1番こたえた。
ネチネチと……おまえは女子か?女子なのか?
書道部女子が出て行った頃を見計らって、「今の時点で、まだ右川を説得できてない」と、ここで阿木&浅枝に近況を伝えた。
「そんなに嫌なんですかね。生徒会、右川先輩と一緒にやれたら楽しいのに。残念だなぁ」
「残念とか言うなよ。まだこっちは諦めてないんだし」
阿木は訳知り顔でちらりと一瞥を加えると、
「ちょっとは違う方法考えたら?あの子は頭の回転が速いから、言葉じゃ叶わないでしょ」
「言葉じゃなきゃ何だよ」
「お金とか物とか」
俺の記憶が確かなら、その類は禁止だと、先ほど貴女が仰ったばかりですが。
「あーほんと、どーして、こう厄介なんだろ」
ノリも、チビも。
「ったく、どいつもこいつも、女子かよ」
そこは頭の中で考えたつもりが、うっかり口から出てしまう。
この場の女子2人がドン引き。ヤバいと思ってからでは遅かった。
阿木が「帰りましょう。女子は」と冷ややかに立ち上がる。
浅枝も凍りついたまま、「帰ります。女子は」と追従した。
阿木は部屋を出る前に振返り、「あ、沢村くんのボスが呼んでた」とか言う。
ボス。
重森のことか。
「〝吹奏楽が部をあげて、次期生徒会長・重森くんを盛り上げる会〟今日だっけ?」
……聞いている。
公示前だというのに、早くもフライング。どういう宣伝効果を狙っているのか知らないが、選挙に乗じて部の栄華をひけらかすとしか思えない。
永田バカが大騒ぎしなければいいけど。
当の重森は、「派手にやるからな」と、やぶさかでない、まんざらでもないという様子だが、俺はどうにも気が乗らない。重森を盛り上げる事に、正直どんどんシラけてくる。
腕を組んで、しばらく目を閉じた。
すると阿木が、
「すぐ行って。私が意地悪して伝えなかったとか、嫌味を言われたくないんですけど」
「へいへい」
足取り重く、その舞台となる中庭に向かった。